アリアハン 8
渦を巻いた水溜り。
初めて見るリグやライムにとってそれは、奇妙な物体にしか見ることができなかった。
おそらくは魔力の一種が働いている上での現象なのだろうが、そう考えてもやはりにわかには信じがたかった。
「・・・あのさバース、これ何だ? 俺こんなの初めて見たんだけど」
「こんなのなんて言っちゃったら旅の扉が可哀相だろうが。これないと俺たち、アリアハンの大陸から脱出できないんだぞ」
「旅の扉? 扉って言うよりも私には水溜りにしか見えないんだけど」
「そこにツッコミ入れられちゃ俺もどうしようもないんだけど。ええっとな、旅の扉ってのは一瞬でこの場所から別の場所に移動できる装置なんだ。
この渦の中は、今俺たちがいるここと向こうを繋げてる道みたいなもん。移動してるとか、そういった感覚はほとんどないうちに向こうに着けるから時間短縮にもなって便利だぞ」
口で説明するよりも一度実際に入った方が体で覚えるぞと言ってバースは解説をやめた。
説明してくれといえばいくらでも、専門的な難しい原理まで交えて話してやることもできる。
しかしそんな予備知識はリグたちには必要ないはずだ。
彼らはあくまでも、これを使えばいいだけなのだから。
バースの講義の間、エルファは一言も言葉を発さずにじっと渦と見つめていた。
何か強烈な意思を持って見つめているのではなく、そこにあるから見つめているだけのようにリグには見えた。
「この中に入ってもそりゃ構わないけどさ、迷子とか酔ったりとかしないのか? エルファはどうだかわかんないけど、俺もライムも旅の扉とか使ったことないからさ・・・」
「大丈夫だよ。旅の扉に導かれるのは本当に一瞬のことだから、リグが酔っちゃう時間なんてないよ。
でも目は瞑ってた方がいいかも。景色は特にはないけど、見ないに越したことはないと思うな」
先程まで一言も話さずにじっと渦を見つめていたエルファが突然口を開いた。
記憶がないはずなのに、まるで昔から知って、使っていたかのようにリグの質問に答えていく。
さらに彼女の言葉にはいつもとは違うはっきりとした響きがあった。
強いて言うならば、別人が言っているような、そんな感覚をリグたちは受けていた。
「エルファ・・・?」
全く予期しなかったエルファの言葉にバースははっとして彼女を見つめた。
バースの顔には明らかに驚愕の表情が浮かんでいる。
「・・・とにかく入るか。酔わないってわかってるし迷子にもならないみたいだし。さ、行こ行こ」
リグは沈黙を破るかのように明るく言った。
ようやくアリアハン大陸に別れを告げられるというのに、いつまでもこのじめじめとした洞窟にいたくはない。
エルファの急変だって、記憶が戻る前触れなのかもしれない。
一行はそれぞれの思いを抱きながら渦の中に足を踏み入れた。
旅の扉が導いた先は鬱蒼とした森の中だった。
アリアハンのいざないの洞窟の中ではまず見ることのできない景色を見て、本当にあの渦巻く水が離れた土地と土地を繋いでいるということが確認できた。
扉に入る直前に不思議な言動をしたエルファも、今はいつものおっとりとした僧侶に戻っている。
むしろ、旅の扉に飛び込む前に自分が何を言っていたのか覚えていないようだった。
それでもいいと3人は思っていた。
全員大した傷がないことを確認してリグたちは森の中から出た。
日は既に傾いていたが、彼らの目にはうっすらと夕日に浮かび上がる城の姿が見えていた。
あとがき
異様なまでに引き伸ばしたアリアハン編。初めがこれでは次からどうなることやら。
文才スキルが欲しい。エルファが変わった人化してます。リグの性格がキャラ紹介とは全然違います。
リグとフィルはまだまだです。
(修正後の感想)
長い、とにかく長すぎる。これ編集したら1話くらいカットできるんじゃなかろうか・・・。
最初からこんなにダラダラやってるからいつまで経ってもバラモス倒せないんだという、連載序盤から生じていた致命的な弱点に気付かされました。