ダーマ 10
ほんの数日の間に2人の賢者が誕生したダーマ神殿は賑わっていた。
周囲の注目を一身に集める賢者の1人エルファは、少しでも早く立派な賢者になるために神殿でバースとその能力を磨いていた。
「すごいぞエルファ。覚えがいいな」
「やだ、私がちゃんと呪文覚えられるのはバースの教え方がいいからだよ。あ、それとも記憶が少し戻って昔の勘が少し戻ったからとか?」
嬉しそうに言うエルファにバースは優しく笑いかけた。
確かにエルファの呪文の覚えはかなりいい。
以前からその治癒呪文の効果には目を見張るものがあったが、賢者となり魔力も大幅に増えた今後は彼女の能力は測り知れないものになるかもしれなかった。
教える側としても教えがいがあるというものだ。
「でもバースはどうして盗賊になったの? 充分魔力があるのに、どうして賢者やめたの」
「今はまだ秘密だな。ていうか、俺も詳しいことは忘れちゃったけど」
「そっか。忘れちゃうようなことがあったのかな。じゃあ私の記憶とバースの理由、どっちが先に思い出せるか競争だね」
どこまでも明るいエルファにつられてバースも笑顔で頷く。
が、ライムを見つけて走り去って行く彼女の背を見送ると、彼はため息をつき寂しげな顔で窓の外を見つめた。
下を見るとリグが1人で素振りをしている。
上からの視線に気付いたのか、リグはバースの方を見ると神殿の中へと入ってきた。
きっとこちらに来るのだろうと思って今度は椅子に腰掛けて待つ。
思ったとおり彼は息を切らせて宿屋のある2階へと上がってきた。
「リグは今日も懲りずに剣の素振りか」
「そういうお前も今日もまた無駄に魔力使ってんのか。弟子の調子はどうだ、俺と違って教え甲斐があるだろ」
「そうだな、それにエルファだからな」
短いやり取りをした後、バースはふと表情を曇らせた。
目の前に座っているリグがそれに見逃すはずがない。
何かあったのかと尋ねようとすると、先にバースのぼんやりとした声がした。
「お前さ、どうして俺が元は賢者だったってわかったわけ? 俺はリグに過去を話したことはないと思うんだけど」
「あれは直感だよ。俺って昔から勘が鋭かったみたいで、きっかけも手がかりも何もないのにある時突然ふっと頭の中に浮かぶんだ。
それが外れてたことはないし、だからエルファとも会えたんだ」
「すごいな、大した特技じゃないか」
バースは彼の知られざる特技に素直に驚いた。
今までもどこか常人とは違うオーラがあったのだが、それは彼の持つ妙な勘の鋭さなのだろう。
また、勘が鋭かったからこそ他人とは一線を置くような性格になったのかもしれない。
近すぎると、本当に知らなくていいことまで知らざるを得ない。
自分と相手の距離を守るためにも、それは必要な所作だった。
「でも、一番知りたいのはそんなことじゃない。エルファの過去も、バースが時々誰にもわからないように見せる悲しそうな顔の理由も、それからライムの本当の家族のことも」
ぽつりと呟いたリグの言葉は、バースの心に深く残った。
賢者初歩修行も終わりを迎えたある日、バースはリグに1つの提案をした。
「一旦アリアハンに戻らないか? 賢者の修行にも一区切りついたし、エルファが賢者になったってこともリゼルさんに報告したいし、フィルちゃんがそろそろ恋しくなってきた頃だろうし」
特に反対する理由もなく、バースの言葉が図星だったこともあり、リグたちは何の問題もなくアリアハンへの帰路につくことになった。
アリアハンに戻るのはかなり久し振りだ。
戻るとなると故郷への愛着心が沸き起こってきたリグとライムだった。
あとがき(とつっこみ)
妙に長かったダーマ編。そしてエルファの記憶が戻りました(その1)。
賢者になったのはそれぞれの理由があるからです。
まだまだわからない、4人の思い。