時と翼と英雄たち


勇者への路    6







 頭がいいが、世間知らずのお人好しだということを忘れていた。
知識はあるが、エルファにはことごとく甘くて馬鹿だということを忘れていた。
何をしてくれやがったのだ、この賢者2人は。
エルファはともかく、生まれてから非行時代を除いてずっと賢者だったバースはいったい何をしていたのだ。
6万ゴールドの価値のものを半額以下で売り捌くとは、何をどうしたらそんな結果になるのか理解できない。
リグはごめんねと言ったきりしょぼくれて正座したままの馬鹿賢者をじとりと睨みつけていた。





「どこの誰が半額で、しかも高級品払下げするんだよ」


「俺らの仲間のエルファです」


「あと半額じゃなくて、実は半額以下だったの」


「もっと悪いじゃんか! 売るにしても価格交渉とかしろよ」!


「いやあ、そういうのはフィルちゃんの仕事だろ?」


「フィルがいるならさせてるけどいないんならお前がしろよ!」


「そんな無茶言うなよ。俺、お布施で生きてたからそういうの無理」


「わ、私も神官団員の頃は全部支給されて経費で・・・」






 駄目だ、こいつら金に困ったことがない。
こちとら帰る家すら魔物に壊され宿無しの勇者なのに、これでは話が合わないのも当然だ。
そういえば一緒に旅をするようになってからもバースはおそらくは実家(ここ)から掠め取ってきたものをエルファに与えていたし、そうでなくてもエルファはお下がりで冒険していた。
主に金がかかるのはこちらとライムで、財政会議の参加メンバーも主に2人だった。
新しい剣が欲しければ魔物を倒しまくり、鎧を新調したくなれば魔物を倒しまくった。
今でこそようやくルビスとアイシャという女神のようなパトロンがついて水鏡の盾やバスタードソード、光の鎧なんて優れものがもらえるようになったが、
それでもまだまだお金に余裕はないのだ。
新しい剣の購入費用3万5千ゴールドなどいったいどうやって工面すればいいのだ。
浮き続けている宿代と手持ちをかき集めても2万5千ゴールドにしかならない。
リグは財布の中身を一応再確認し、あるわけないだろと吐き捨てた。






「俺ら今まで3万も持ったことないんだよ、そもそも」


「こんなことなら座礁一号のやたら豪華なソファ売れば良かったな」


「焦がすぞバース」


「ピラミッドの秘宝とか・・・」


「ああいうとこ長居するとこじゃないんだよ」


「ねえリグ、さっきからずっと言ってる石って何?」





 どこでの出来事を話しているのか、自らも道具屋へ赴いたから知っている。
しかし事件の発端となった石についてはまったく見当がつかない。
そろそろと手を挙げたライムを一斉に見つめたリグたちは、ああと一様に声を上げると拾ったんだと口を揃えた。





「拾った? どこで? 拾い物に3万も値がついて、6万も払うの?」


「ドムドーラにライムがいるって地図に出たから探しに行って、そしたらエルファが見つけたんだ。重かったよなあ、あれ」


「そうそう、リグったら小指ぶつけてホイミしたもん」


「そうだっけ?」


「・・・みんなは私を探しに行ったのよね・・・?」


「「「もちろん!」」」






 遊びに行っているようにしか聞こえないのだが、言い張っているから事実なのだろう。
ライムはようやく解けた疑問に納得すると、次に悩ましい問題の解決を試みた。
言い方は悪いが、要はお金があればいいのだ。
ゴールドマンって、知ってる?
ライムの問いかけにバースがああ・・・と呟く。
あれか、やっぱりあれになっちゃうのか、でもあれしかないもんな。
バースは怪訝な表情を浮かべているリグとエルファに向き直ると、ゆっくりと口を開いた。





「ゴールドマンって魔物がいるんだ」


「ほう」


「私も一度か二度しか戦ったことがないんだけど、倒すとすごくたくさんのゴールドを落とすわ。ちなみにそんなに強くはないかしら」


「おどる宝石みたいなのってこと?」


「そんなとこだ。見た目はストーンマンで、でもストーンマンよりもキラキラしてる。こっち暗いから逆に目立つと思う」





 目標はゴールドマン10体だ。
バースの静かな宣言に、リグは俺丸腰なんだけどとぼやいた。






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