ジャンクション 1
買い貯めたキメラの翼を手にアリアハンを出る。
呪文が使えないことが嫌だと思ったことはないが、ルーラくらいは覚えたかった。
キメラの翼も大量購入すると、なかなか費用が嵩む買い物になるのだ。
どこかにお出かけかいと妙な詮索もされてしまうし。
さて、せっかくお休みをもらったのだからとりあえずサマンオサとアイシャの元へ行こう。
そう思いキメラの翼を放り投げかけたライムは、空高くから自分を呼ぶ声が聞こえ天を仰いだ。
お出かけするなら私も行きますとおそらくは笑顔で提案してくれたラーミアが少しだけおかしくて、ライムは思わず吹き出した。
『どうして笑うんですか、ライム』
「あ、ごめんなさい。なんだかラーミアが可愛くて」
『可愛いですか? こんなに大きいのに?』
「可愛いわよ。そうね・・・、だってなんだかんだあってもラーミアはこの間生まれたばかりだもの」
『可愛いって初めて言ってもらいました。嬉しいです、ありがとうライム』
嬉しいから乗って下さい案内しますと翼をはためかせるラーミアの言葉に甘え、初めて1人でラーミアの背に乗る。
4人で乗っても充分に広いが、1人だと尚更広く雄大に感じる。
軽すぎて振り落とされやしないかと不安になるが、ラーミアが大丈夫だと言い張るので大丈夫なのだろう。
神のしもべは嘘をつかないと信じたい。
「じゃあサマンオサまで行ってくれるかしら。場所はわかる?」
『はい。山に囲まれた大きな国ですね』
「そう。ありがとうラーミア、キメラの翼代が浮いちゃった」
『魔物に頼るくらいならわたしを頼って下さい』
「ああ、やっぱり魔物なんだ。会ったことないわ、まだ」
会ったことはないが存在するキメラという魔物は、アレフガルドにはいるのだろうか。
あちらの世界でのキメラは便利な交通手段ではなく、ただの憎き仇なのだろうか。
会って見てみたい気もするが、安易にそうしてしまうときっと後悔する。
誰も後悔してほしくないから、今こうして思案の旅に出ているのだ。
リグやバース、エルファだってきっとそうだ。
今頃彼らは彼らであちこちを旅したり、あるいは考えながら時を過ごしている。
辛い旅とも言えた。
『ライムはずっと前から隠し事をしていますね』
「わかる?」
『はい。でも、ライムはそれでも心正しい人です。誰よりも他人の事を考え愛していて、まるでルビス様のよう』
「そんなに大層な人じゃないわ、私は。言える勇気がないだけなのかも」
『いいえ、それは言わない強さです。今それを言ってはならないとわかっているから口に出さないのでしょう? 口に出すと、マイラヴェルが怒ってしまうから』
「バースね。・・・そうね、知るとバースはきっと怒る。1人でゾーマを倒しに行ってしまう。それは私たちが望むことじゃないのに」
バースは冷静沈着な賢者ではない。
あれは意外と情熱的で、感情で行動する男だ。
殊に、自分の周りの身近な人や家族のことになると我を見失いがちだ。
家族はいらない、大嫌いだと口では言っておきながら、良くも悪くも一番見捨ててはおけない厄介な存在。
それが家族ならば、ますますバースにあの事は話せない。
もちろん、リグやエルファにもだ。
「私ってすごく幸せ者なんでしょうね。両親がいて、実は姉もいて、大好きな人もいて」
『今から会いに行く方も、ライムの大切な方ですか?』
「ええそう。ああラーミア、もうその辺りでいいわ。あまり山際に降りないでくれるかしら」
『頑張ってます、私今とても』
ライム1人だと思った以上に体が軽いですと、嬉しいような不安になるようなことをラーミアが口にする。
軽いから風に流されやすいとでも言いたいのだろうか。
確かに今日は武装していないが、4人と1人、武装と軽装とでこうもラーミアの体感重量が変わってくるのだろうか。
ふわりとなんとか平地に着陸し背から飛び降りたライムは、大人しく羽を休めているラーミアの頭をゆっくりと撫でた。
「ラーミア、遠くまでどうもありがとう」
『私こそ、ライムとお話しすることができて楽しかったです。ライム、あなたは本当に心優しい素敵な方です。本当にルビス様のよう』
「そんなに言われるとぜひとも会ってみたくなるわね、ルビス様」
一介の人間に似ていると評されてしまったルビスとしては、どんな気持ちなのだろう。
ライムはラーミアに別れを告げると、賑やかなサマンオサ城下町の門を潜った。