スー 7
エジンベアの城門で、リグは門番と睨みあっていた。
どんと仁王立ちしている門番をすり抜けて、城内に入ろうとするが、影のように付きまとう奴に邪魔されるのだ。
「・・・なんで俺だけ通れないんだよ。」
「田舎者は帰れ!!」
「ライムたちも田舎者だろ!?」
リグはすでに門番をパスして向こう側に立っている、ライムたち3人を指差した。
どうして彼らは通れて、自分は通れないのだ。
そんなのおかしすぎる、理不尽だ。」
「あの2人は賢者殿だ。
ゆえにただの田舎者ではない。
こちらの女性のような美人が田舎者のはずがない!!」
「へぇ、そういうことだったんだ。
私初めて知ったよ?」
「ほら、俺らはちょっと容姿が田舎者っぽくないからさ。」
「でもリグが来ないと、いつまで経っても私たちはここで足止めよ。」
反復横跳びの要領で右へ左へと素早く移動を試みるリグ。
しかし、彼の動きに合わせて門番もまた動くものだから、全く進展がない。
さすがに見かねた、というか見飽きたバースがリグに呼びかけた。
「リグ、お前消えろよ。」
「は!? 何言って・・・・・・。
・・・あぁ、そっか。」
リグは持ち物入れをごそごそと探った。
この間バースからもらった消え去り草を取り出す。
そして、門番に背を向けると、そのまま食べた。
身体が一瞬、ものすごく熱くなった。
表面から何かが溶けていくような気がした。
暑さが消え、そっと自分の両手を見つめた。
ぼんやりとした輪郭が見える。
はっきりとした色彩が、なくなっていた。
「これが消え去り草・・・。」
己の目で見てこうなのだ。
おそらく、門番やライムたちには全く見えていないのだろう。
リグは効力が切れる前に門番の脇をすり抜けると、ほんの悪戯心から彼の足を引っ掛けた。
足元を掬われ転ぶ門番を見て、小さく笑う。
「リグ、とっとと来い。
効力切れるだろうが。」
リグの肩にぽん、と手が置かれた。
横を見ると、ぼんやりとした姿のバースやライムが立っている。
3人の目は、明らかにリグの方を向いていた。
「なんで?」
「俺らも消え去り草食べたの。
食べた奴同士の姿は見えるからな。」
「わかってるって。
でないと、そんなピンポイントで俺がわかるか。」
誰もいないのに、声ばかりが聞こえてくるという怪奇現象に恐れをなしたらしい門番は、床にへたり込んだまま動かない。
リグたちはそんな彼を放って、悠々と透明人間のまま城内へと侵入を果たしたのだった。
リグたちは、城門を歩くなか感じる視線の痛さにげんなりしていた。
あちこちから田舎者だ、との囁き声が聞こえる。
アリアハンはそんなにド田舎なのか、とリグは思わず呟いた。
「一応国だし、レーベよりは都会だろ。」
「レーベと比べるのって、悲しくならない?
ロマリアとかと比べよう、リグ。」
ぶつくさと文句を言うリグを宥めるエルファ。
しかし、ともエルファは思った。
彼には帰るべき故郷があり、家族がいるのだ。
自分は、田舎者だったかはおろか、どこに住んでいたのかすらわからない。
家族がいるのかも、もちろんわからないのだ。
(バースは知ってるはず、私のこと)
縋るようにバースを見つめ、はっと我に返った。
彼には過去について何も聞かないと決めているのだ。
昔何があったとしても、どんな関係だったとしても、これからの運命に身を任せると決めたのだ。
だから今は聞かない。
エルファはそう心に言い聞かせた。
「エルファ、どうした?」
「きゃあっ!?」
不意に目の前に現れたバースの顔を見て、エルファは思わず悲鳴を上げた。
バースは驚いたように目を丸くすると、苦笑しつつごめん、と言った。
「さっきじっと俺のこと見てたから、どうしたのかなって。
驚かせちゃったかな。」
「ううん、そんなことないよ!?」
エルファは無理やり笑顔を作ると、バースの手をごく自然な動作で取った。
これにはバースの方が大いに戸惑った。
指の先から伝わるぬくもりを、何度懐かしんだことだろうか。
こうしてまた手を触れ合うことができた奇跡を、バースは神に深く感謝した。
「そ、そうだ。」
「ん?」
「この城のどこか隠された地下室に、海を干上がらせる力を持った壺があるんだって。」
たまたま通り過ぎた部屋から聞こえてきた言葉を、バースはそのまま口にした。
地下室がどこにあるのかはまだわからないが、さして大きくはない城だ。
1日探せば見つかるはずだ。
「じゃあ、それが例の壺ってことかな!」
「たぶん。だから今から地下室を探そう。
4人でやれば地下室ぐらいすぐに・・・。」
「なんだ、こんなとこにいかにも怪しげな地下室が。」
「・・・ほらな。」
エルファと手を繋いだままリグとライムの元へ向かう。
なるほど、そこには細い階段が地下への道を示していた。
「この下に海を干上がらせる壺があるかも知れないからな。
気をつけて降りろよリグ。」
「了解。」
リグたちは、一列になって地下へと降りていった。
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