時と翼と英雄たち

スー    9




 かわきの壺を無事手にいれたリグたちは、今が深夜であることに今更ながら気がついた。
とりあえず地下室から出て、空き部屋のベッドで休む。
そしてその夜、エルファは過去を視た。


























 城内の庭園で、エルファとリゼリュシータ王女は話し合っていた。





「この間、城下の小さな村に行ったんです。
 ちょうど祭りの時期だったみたいで、とても賑やかでした。」


「そうなの。・・・私はエルファが羨ましくてなりません。」




にこやかに村の感想を述べるエルファに、王女は寂しげな表情を見せた。
いつも明るく振舞ってくれる彼女にしては、それは珍しいことだった。




「エルファたち神官は、時々外へ出ることがあるでしょう?
 私は、王族の一員として他国の王子の下へ嫁ぐまで、ここから出られない。
 ・・・いえ、たとえ婚儀をしても、その国から出ることは許されない。
 永遠に、籠の中の鳥です。」





 籠の中の鳥。
 その言葉に、エルファははっとした。
どこかで聞いた気がするという思いは、嘘ではなかったのだ。
過去に王女の口から聞いていたのだ。
鳥は王女だ。
可愛がられはするけれど、外に出ることはできない。
当時自分は王女の悲しみを聞きはするが、取り払うことに悩んでいたのだ。
1人では抱えきれなくて、さりげなくバースにも相談したはずだ。
その結果どうしたのかは、残念なことにまだ思い出せないのだが。






「うふふ、こんなことを言ってはエルファが困ってしまいますね。
 最近の私は、同じことばかりぼやいています。
 ごめんなさいね。」


「いえ・・・。」





 何の言葉もかけらなれかった自分自身が、もどかしかった。
だが、今でもどう言えば良かったのか、答えははっきりしていない。
今も当時も、結局は変わっていない。
そんなことはありません。
どこからかそう語りかける、優しい声を聞いた気がした。
あなたは誰、そう呟いてエルファの意識は夢から遠ざかっていった。


























 夢から目覚めたエルファだったが、再び眠ることはできなかった。
仕方なく、リグたちを起こさないように、そっと部屋を抜け出す。
見回りの兵たちも寝息を立てている。




「・・・これじゃ見回りになってないよ。」





 真夜中の城内を散歩するなんて、滅多にない機会だ。
ふと、柱の影で何かが動いた。
本人は隠れているつもりなのだろうが、生憎とローブの裾が廊下に広がっている。
一体誰なんだろう、と興味津々で近づいてみる。




「誰か、そこにいるんですか・・・?」


「お・・・、お願い! 父様には言わないで!」


「はい? ・・・あの、もしかして、お姫様ですか?」





 暗闇の中で見つかり、恐怖でかたかたと震えている少女。
自分とさして歳は変わらないように見える。
エルファは彼女を落ち着かせるため、杖の先にメラの火の玉を灯した。




「はじめましてこんばんは。
 この間ここに来た、エルファと言います。」


「田舎者・・・?」


「はい、そうです。」





 悪びれることなく田舎者、と呼ばわる姫に、エルファは苦笑した。
きっと彼女は、田舎をよく知らずに使っているのだろう。
そう思うと、少し不憫にも思えてくる。




「す、少し私と話をしてくれない?
 知りたいことがあるの。」


「もちろん、私でよければ喜んで。」






 2人の少女は空き部屋へと向かった。
初めは緊張していた姫だったが、旅の話などを聞くうちに、打ち解けてきた。
時には笑顔すら見せてくれる。




「エルファ、その・・・、田舎は良いところなの?」


「はい。私は田舎と思ったことはないんですが。
 素敵なところばっかりです。」


「・・・外を知らないっていうのは、寂しいわね。」





 エルファには、姫の横顔と夢の中のリゼリュシータ王女の顔が、被って見えた。
彼女も、外を知らない人物なのだ。
そしてそれを、少なからず寂しいことだと思っている。




「世界が平和になったら、私も船に乗せてもらえるかな。
 父様と一緒に、いろんな所に行けるかな。」


「行けます。王も、きっと連れて行ってくれます。」


「そっか。私、海が好きなの。
 海が―――――――――。」






 楽しげに語っていた姫の目が、ふっと遠くへと視線を移した。
遠くではない、その瞳に宿るのは、彼女ではない意思ある力だった。
エルファは彼女の異変に、すぐに気がついた。
この異変には、過去に遭遇したことがある。
姫の口が開いた。







”数多の波に揺られし 紅(くれない)の佳人
 対の刃に 道を示さる”







 宝珠の言霊だ、と確信した。
素早く紙に言葉を書き連ねる。
紅、ということはレッドオーブなのだろうか。
1人で深く考えるのはやめた。
後日、きちんとリグたちに話すべきだった。
それよりも、今対処すべきなのは、この姫だった。
意識が飛んだのか、はたまた眠気が襲ったのか、くたりと横になり、ぴくりとも動かない。
ずっとここに放置するのもかわいそうだが、自分1人で彼女を部屋まで戻すのは、まず無理だった。
誰か助けを呼びたいが、こんな時間だから躊躇ってしまう。
むしろ、確実に怒られてしまう。
奥の手を使うか、とエルファは小さく息を吐いた。
こんな姿、みんなには見られたくないな。
エルファのぼやきは、吸い込まれそうなほどに暗い廊下に消えていった。
彼女の使った奥の手とは、自身にバイキルトをかけ筋力を増強することだった。

























 翌日、リグたちはあっさりとエジンベアを後にした。
夜更かしをしたエルファをずるずると引きずりながらである。
船に乗ると、彼女の頭もまた船を漕ぎ始めた。





「エルファ、大丈夫か?  ザメハいる?」


「ん・・・、いらない・・・。」





 エルファの眠気は最後の鍵を手に入れる寸前まで、覚めることがなかった。





「エルファ、子どもじゃないんだから、夜更かしもたいがいにしなさいね。」
 もう、船室で寝てていいから。」


「ありがと、ライム・・・。」





 母親のようなライムの言葉を受け、ぐっすりと眠りについたエルファだった。









あとがき(とつっこみ)

見事に最後の鍵ゲットのシーンを、省きました。
フィルがいなくなるのは、皆さんの予想を外していないと思われます。
しっかし長かったなぁ、ゲームだとほんの1時間足らずで終わるところなのに。





backnext

長編小説に戻る