あの男、いけ好かない偉ぶった頑固者だと思っていたが本当にそこそこえらい監督だったのか。
はクレームついでにどさくさ紛れに侵入したサッカー棟なるサッカー専用施設のスタンドに腰かけ、サッカー部存続を賭け戦うことになったチームそれぞれを見渡していた。
ろくでもない不良がするサッカーにまともさを求めてはいないし、予想もしていないのでこの試合は見たところで面白くもなんともないだろう。
そうわかっているのにスタンドから離れようとしないのは、いけ好かない監視役といけ好かない不良少年に文句を言うためだ。
脱走して帰るにしても、やられっぱなしでは気分が悪い。
しっかりみっちりぎゃふんと言わせ、謝罪の言葉をもらわなければ問題は解決したことにならない。
大人は救いようがないが、子供はまだ更生の余地がある。
誰かが悪いと叱らなければ、不良はいつまで経っても不良のままだ。
過去にこちらを誘拐しようとして見事に失敗し、最終的に自らの心を拐すはずの相手つまりこちらに捧げてしまった不良少年の更生遍歴を知っている以上、彼も必ず脱不良できる。
ボールをくず入れや建物に向かって蹴らないという幼児でもわかる常識を叩き込むことが、更生への大きな第一歩だ。
は不良少年率いるチームを見下ろし、首を捻った。
サッカー部がなくなろうと存続しようとどうでもいいのだが、サッカーを潰そうとしている彼らは宇宙人ではない。
彼らはいったい何の組織なのだろうか。
自分はいったい何に連れ去られたのだろうか。
なぜここにいるのだろうか。
あの時見たフードの男は、本当は誰だったのだろうか。
数日前の事件を思い出そうとするが、なぜこうなるに至ったのかわからないのですべてがちぐはぐで繋がらない。
怒涛の10年前と違い、最近はこの上なく平穏で幸せだった。
幸せボケもしていたかもしれない。
多少雑誌や新聞、テレビに映りメディアを彩ったことはあったが、マフィア的な組織に目をつけられるようなやんちゃはしていないはずだ。
良くも悪くもサッカー漬けの日々を送り、周囲に感化されているのかサッカーバカになりつつある。
雷門を去ったきり旅行でも一度訪れたかどうか程度の縁しかない日本の、しかもサッカー界を怒らせるようなことをした覚えもない。
下手をすれば国際問題に発展しかねないことをしでかした謎の組織が、気味悪くてたまらない。
は雷門中サッカー部を圧倒しあっという間の10点もの大量点を奪った不良チームもとい黒の騎士団を見やり、つまんないとぼやいた。





「サッカー嫌いならやんなきゃいいのにばっかじゃないの、この子たち」




 サッカーが嫌いだからサッカー部を潰そうとしているはずなのに、黒の騎士団の動きは人間離れしたものばかりだ。
スピードも違うし、ただのパスは雷門イレブンにとってはシュート並みの強力なものだ。
サッカーを憎む者が、こうまで強くなるだろうか。
好きだから強くなろうと特訓するだろうに、彼らの目的がわからない。
才能ある子供たちの未来の活躍の場を奪う日本のサッカー界が愚かしい。
日本サッカー界が滅ぶ前に、せめて1人だけでも地獄から掬い上げておいて良かった。
はスタントから立ち上がると、黒の騎士団ベンチに向かうべく歩き始めた。
途中、あまりの力量差に恐れをなしフィールドから逃げ出した雷門イレブン数人とすれ違う。
逃げ出したくなるのもよくわかる。
ずっと昔雷門中で行われた帝国戦でも相手の強さに怯え逃走した奴がいたし、強くて怖いものから逃げるのは人間の動物的直感から言えば正しい。
だが、そもそも怖がらせるようなサッカーをすることが間違っている。
これではサッカー部を潰したいのか部員を潰したいのかわからない。
部を潰すのは学校編成上ありうることなのでまだいいが、人の体を潰すことはいただけない。
しかもそれを、自らの手を下さずいくら不良とはいえ前途ある子供にさせるのはもっと良くない。
そういうことをさせるから不良が生まれるのだ。
はとてつもなく見覚えのある雷門中ベンチの大人たちに見つからないようにそっと黒の騎士団ベンチに忍び寄ると、不良少年に帽子のつばを使いサインを送っている男の肩をちょんとつついた。





「・・・ああ、ちょうどいいところに。見て下さい彼を、素晴らしいでしょう」
「ほんとに素晴らしく性格ひん曲がったくそがきだこと」
「彼の名は「くそがきの名前なんかどうだっていいわけ。あんた、これ以上ろくでもないことしてるとぶつわよ」
「ほう・・・、その華奢な体で私を?」





 どいつもこいつもわあわあがぁがぁうるさいっての。
黒木と名乗った監視役に平手打ちをくれるべく手を振り上げたは、手を下す直前にフィールドに姿を現した巨大な人型の化け物を見上げへぇと感嘆の声を上げた。






黒木氏の胃袋vs暴言暴挙






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