3.突撃! お宅の女神様










 マジンにしてはカラフルなマジンだ。
マジンといえば単色、贅沢しても3色がマジンの自己表現の限界だったというのに10年経ってサッカー界のマジンの地位も向上したらしい。
は不良少年の背後に控える甲冑姿のマジンを見上げ、マジンの色彩的進化をしみじみと感じていた。




「はあー、マジンもおしゃれしちゃってまあ」
「マジン? 否、あれは化身」
「似たようなもんでしょ。どうせあれもサッカーバカの熱すぎる思いが自分の心の中に仕舞っとくだけじゃ手に負えなくなって、外に駄々漏れしてるってだけで」
「・・・・・・」
「マジンだか化身だか知らないけど、今更あんなのにびびったり驚いたりするわけないっての。あんた私を何だと思ってんの? 私のこと調べてファンになってから出直してらっしゃい」




 ま、ファンになりましたって言われてもこっちはキチガイを取り巻きにするなんざお断りなんだけど。
はこちらを化け物を見るかのような目で見つめてくる黒木に向かって言い放つと、化身とやらをぶつけ合う代理サッカーを始めた不良と雷門中イレブンキャプテンらしき少年へと視線を移した。
今の時代のマジンもとい化身は、必殺技以外の時にも召喚できるらしい。
擦れば現れるランプの精のようなお手軽さはやはり化身と呼ぶよりもマジンと称した方がしっくりくる気がするが、生憎とこちらはサッカー用語編纂者ではない。
それにしても派手な戦いだ、人間が戦っているのか化身が戦っているのかわからない。
だが、泣きながらでも戦わなければならないほどに雷門イレブンの彼はサッカーやサッカー部を愛し、大切に思っているのだろう。
涙を堪え、あるいは流すような辛い目に遭いながらも守りたいものを果たして自身は持っているのだろうか。
今の状況は泣きたくなるほどに追い詰められていないしむしろ怒りで熱くなっているが、やがて辛くなる日がやって来るのだろうか。
辛い思いをするくらいならやめればいいのに、やめたらもっと辛くなるから彼は辛くてもぶつかる道を選んでいるのだろう。
強いなあ、私なんかここから逃げることしか考えてなかったのに、あの子は力強く泣く子だなあ。
片や泣きながら、片や笑いながら化身を繰り出し戦っていた2人の間でボールが高く宙を舞う。
そこまでです!
それまで面白げに観戦していた黒木が突然中断を告げ、不良が納得いかないといった形相でこちらを振り返る。
なぜだという問いにも答えず撤収を促しフィールドを後にする黒木に、はすれ違いざまに声をかけた。





「どうせやめさせんなら前半でやめさせといても良かったんじゃない?」
「あなたは何も知らないのか?」
「何を?」
「聖帝のご意思と、我らフィフスセクターの目的です」
「セイテイ? フィフス何?」
「・・・まあいいでしょう。来なさい」




 嫌だと言われるかと思いきや、素直についてくる謎の美人に黒木は違和感を覚えた。
出会った時から隙あらば逃げ出そうぶん殴ろうと敵愾心と警戒心しか抱かれていなかったが、今はぞっとするほどに大人しい。
化身を一気に2体も見せつけられ肝を冷やしたのかもしれないとも考えたが、化身をマジンと言い張りとんでもない自説をぶちまけ化身の正体を話したことからそれは違うだろう。
大人しい彼女が何を考えていているのかわからなくて、いつか爆発するのではないかとどきどきする。
聖帝も、いきなりこちらに押しつけてくるのではなく事前に少しでもいいから組織について説明していてほしかった。
物思いに耽りながらチーム及びを引率していた黒木は、ああそうだと背後で声を上げたかと思えばつかつかと選手たちへと歩み寄ったを制止し損ねた。





「あのね、みんな子どもだから特別優ーしく言ったげるね。サッカーしたくない嫌いだって思ってんならボールに触るなユニフォーム着るな、上手になったって意味ないでしょ?」



 
 特にそこの不良、嫌いなサッカー上手になっても特訓してた時間無駄なだけだってわかんない?
棘だらけの言葉を言い放ったは、鋭い視線でこちらを睨みつけてくる不良にとびきりの笑みを見せると黒の騎士団を置き捨て稲妻町の仮住まいへの帰途に就いた。







目次に戻る