セイテイのご意思とやらがわからない。
は迎えに現れ半ば強引に乗せられたリムジンに連れられるまま、栄都学園併設のサッカー競技場前に突っ立っていた。
センチメンタルイケメンキャプテン神童と再会できるのは嬉しいが、きな臭い匂いしかしないサッカーはあまり見たくない。
先日のケンジョウ率いる黒の騎士団対雷門中サッカー部のような一方的で痛々しい試合だったら、尚更見たくない。
そうでなくても選手の親が八百長を持ちかけるような試合だ。
裏でどんな取引が行われているかわかったものではない。
は既に観客で埋まっている超満員のスタンドに入ることを諦め、関係者入口へと足を向けた。
フィフスなんとかの圧力に屈したわけでなければ雷門中に与したわけでもないのだが、中学校のセキュリティの甘さは現役中学生時代に毎度のごとく侵入成功した経験からよく知っている。
強引に連れて来たのならばVIP席も用意しておくべきだというのに、フィフスなんとかは詰めが甘い。
はどこからともなくパイプ椅子を調達してくると、入り口付近にでんと陣取った。
「日本の中学生のお手並み拝見ってとこ?」
雷門イレブンの情報も相手校のことも何も知らないが、試合を観れば力量や癖など自ずとわかるだろう。
ウォーミングアップにも隙があるようなチームが、高度な必殺タクティクスをやってのけるとは思えない。
そもそも、それが自力でできるだけの力があれば八百長など持ちかけてはいない。
今度試合会場に連れて行かれた時は、突然のパイプ椅子観戦に腰を痛めないようにリムジン内のクッションを持ち歩くことにしよう。
はぎいぎいと嫌な音を立て軋むパイプ椅子に眉をしかめ、ため息をついた。
「VIP監禁するなら外出てもVIP待遇するのが筋ってもんなのに、ったくこれだから日本育ちの男は気が利かない」
「・・・あ」
「ああ? あらケンジョウくん」
「あらじゃねぇよ・・・。何してんだ、こんなとこで」
「サッカー観戦にしか見えなくない? ケンジョウくんこそなぁに、サッカー嫌いなのにこんなとこ来て時間無駄にして人生空しくない?」
「雷門中サッカー部を監視するのが俺の任務なんだよ。黒木さんから聞いてないのか?」
「いつの時代もストーカーっているもんねえ。いたいた、私にも昔私目当てにあれこれやってたストーカーと犯罪者と宇宙人とキチガイが1,2,3・・・5人くらい?」
昔から可愛くてもってもてでさあと訊いてもいなければ興味の欠片も湧かない与太話をべらべらと話すを視界からシャットダウンし、始まった雷門中対栄都学園の試合へと視線を移す。
今回の試合は3対0で雷門中が負けることになっている。
フィフスセクターの影響力が絶大な中、どの学校もフィフスセクターからサッカー界の秩序を守るためという趣旨の元下された勝敗指示を無視することはできない。
フィフスセクターの監視下にあるとはいえ、古くからの名門雷門中だ。
たとえ負け試合であっても、明らかな手抜きとわかるような無様な演技はしないはずだ。
あくまでも観客たちには真面目な試合をしているように見せ、裏ではすべてが仕組まれたサッカーごっこをする。
こんな試合をわざわざ見に来たこそ時間を無為に過ごしている。
剣城はパイプ椅子に腰かけ黙って試合を眺めているを横目で見て、小さく鼻で笑った。
「ふんふんふん、へーえ、ふーん」
「・・・・・・」
「はーあ、ふーん、へえええええー」
「うっせえ」
「別にママが八百長おねだりしなくても、この試合自体が出来レースじゃん」
「・・・黒木さんから聞いたのか」
「黒木? あああの人、私がちょーっと領収書と請求書プレゼントしたら、あの人自分の仕事部下に押しつけて家に寄りつかなくなったと思わない?」
「黒木さんに何したんだ」
「べっつにー? ああまあ、これはこれで面白いじゃん」
「あんた正気か?」
さらりと言ってのけたに、剣城は思わずを顧みた。
『面白い』というのは勝敗指示の存在を知らない一般人の持つ感想で、間違っても内部事情を知る者が口にする言葉ではない。
フィフスセクター側の人間でもなさそうななのに、なぜ彼女は指示を与えている側よりも暢気に面白いというのだろうか。
はぎいと音を立てパイプ椅子から立ち上がると、剣城の隣に歩み寄りすうと右手をフィールドへと伸ばした。
「栄都っていうの? もうちょっとしたらあそこのMF7番がアシストしてFW9番にパスしてそのままシュートするんでしょ?」
「・・・・・・」
「雷門のキーパーは腕がいいしいい必殺技持ってるから、フォーメーションもろくにできないし一番いいタイミングってもんも知らないで適当な時にパス出してるちぐはぐチームのシュートなんか簡単に止められると思うの。でも、そしたら八百長が成立しないからキーパーは程良く手抜きして1点あげる。どう、合ってる?」
「合ってるも何も知らねぇよ」
「はあ? だってケンジョウくん八百長させてるとこにいるんでしょ。なんで知らないの」
「知るかよ! フィフスセクターが出すのは勝敗指示だけで、誰がどう得点するのかまでは指図しない」
「ふぅん」
そういうもんなんだあとのんびりとが相槌を打った直後、栄都学園がMFとFWの連携プレイにより1点を奪う。
得点に係わった選手まで予測し的中させたを、剣城は思わず二度見した。
本人はほーらやっぱりわっかりやすいのよとさも当たり前のように口にしているが、彼女の予言は簡単にできるものではない。
見たこともないはずの栄都学園の動きを短時間で分析し、それどころかチームしか知らないゲームメークまで暴露した。
誰だこいつ、何者だ。
聖帝か黒木が勝手にスカウトしてきた見た目が綺麗なだけのいけ好かない女性だと思っていたが、実はとんでもない人物だったりするのか。
剣城はゲームメーク解説が終わり、再びパイプ椅子へと戻ったにおいと声をかけた。
「あんた、何者だ?」
「通りすがりの観客」
「ふざけんな。さっきのゲームメーク、どうやった」
「どうも何も見りゃわかるでしょ、あのくらい。やぁだケンジョウくん特訓してんのにわかんなかった?」
「わかるわけないから訊いている。あんなゲームメーク、誰がわかる」
「神童くんはわかってんじゃない? だって神童くん、私の「やめろ!」
こちらが神童を同じ化身使いとして敵視し警戒していると知っていて言っているのか、知らないままに彼の名を連呼しているのかはわからない。
わからないが、自分では理解できなかったことを他人ならばわかるはずだと評されるのは腹が立つ。
認められていない、見下されているような気がして悔しい。
剣城は怒りの籠もった目で、言葉を遮られたことも意に介していないのか淡々と試合を観戦しているを睨みつけた。
こちらをいないものとして捉えているのか、どんなに睨みつけられていても見向きもしないに腹立たしげに声をかける。
「・・・そりゃ泣きたくもなるわ、こんな試合ずっとさせられてちゃ。切れたくもなるわ、自分に対しても周りに対しても、サッカーに対しても」
キャプテンって大変なお仕事よねえ。
遠目からでもわかるやたらと神童に構ってほしがっている雷門イレブンの1人と、彼に絆されたのかあるいは切れたのかパスの勢い任せに栄都学園ゴールにシュートを放った神童を見やり、
は会場から退去すべく席を立った。
経験値の違いってやつ、教えてあげるにはケンジョウくんはまだまだまだまだ