イケメンに泣きつかれわかった行ってあげると答え、イケメンを早く安心させるために言われた当日の夜に行動したのが悪かった。
先客がいた。
は出前に訪れていた雷雷軒2代目店主の背中を薄暗く冷え込んだ中学校の廊下からじっと眺め、寒さに首をすくめた。
響木が反フィフスセクター勢力のトップに就いているとは当時まだこちらについての何の事情も知らなかった円堂や鬼道から教えてもらっていたが、レジスタンスとしての活動が忙しくなったから店の暖簾を飛鷹に譲ったのかもしれない。
味の方はどうなのだろうか。
雷雷軒の食事は人のおごりやサービスでしか食べたことがないから、味はよく覚えていない。
お腹減ったなあ、私もお夜食食べたいなあ。
ぐうと小さく鳴った腹を押さえたは、鬼道がいるらしい唯一明かりの点いた部屋から配達が終わり出てきた飛鷹にやっほと声をかけた。




「どうして入らないんすか」
「男同士の会話を邪魔しちゃ悪いでしょー。てか飛鷹くん私のこと覚えてたんだ」
「当たり前です。忘れてませんぜ、さんのあの堂々とした啖呵の切り方」
「もーやだあーそういうこと言ったって今日は何も買わないってばー」
「買ったことないらしいじゃないですか、円堂さんから聞いてます」
「ふふん、パトロンいっぱいで羨ましいでしょ」
「たくさんのパトロンよりも1人の騎士ですよ」





 用を終えたから部屋を出たはずの飛鷹が、再び鬼道の部屋をノックする。
どうしたと中から聞こえてきた声に、飛鷹はドアを開けるとを部屋へ押し込んだ。





「えっ、ちょ」
「サービスのデザート一丁」
「・・・・・・ほう」




 飛鷹くんめ、そんな冗談言う人だったっけこの野郎。
心の準備もろくにできていないまま飛鷹によって鬼道の前に押し出され強引に2人きりにさせられたは、ばたんと閉められたドアを後ろ足で八つ当たり気味に蹴ると
こちらの動向を窺っている鬼道に向かってえへへとぎこちない笑みを浮かべた。
ああ空気が重たい。
重くしてしまった原因はこちらにあるのだろうが、そもそも鬼道が帝国学園の総帥をやっていた頃にハニーの奪還というミッションを忘れずにクリアしていればこんなことにはならなかったのだ。
神童には悪いが、今すぐ帰りたい。
しかし今帰ったら次神童に合わせる顔がない。
はゆっくりとドアから離れると、口を開いた。





「こんばんは、・・・デザートです」
「ああ、こんばんは」
「・・・・・・あのう・・・」
「何をしに来たのかは大体わかっている。神童か剣城に俺の練習をどうにかしてくれと泣きつかれた・・・といったところか?」
「さっすが有人さん、あったりー」
「・・・まだそう呼んでくれるんだな」
「へ?」
「もう駄目だと思っていた。は俺を捨てて見限ったのだと思っていた」
「そういうことされる心当たりあるんだ? あっ、もしかして私の目が届かないのをいいことに浮気?」
「俺が心に決めた女性以外を愛せるほど器用な男だと思うか?」
「無理無理、有人さんはずーっと昔から私しか見えてないで今日まで生きてるんだから、今更いきなりそんなプレイボーイにはなれないなれない」





 見た目だけならバスローブ姿でワイングラス片手に美人さん2,3人侍らせてそうなんだけどギャップってすごいよねえ。
ようやく緊張が解れたのか、は先程までのぎこちない笑みとはまるで違うへにゃりとした笑顔を浮かべると、書類が大量に積まれている鬼道の机から
一番上に置かれている紙をひょいと摘み上げた。





「神童くんはいい目してるゲームメーカーだけど、試合以外じゃまだまだみたいね」
「雷門の強さはそれぞれの必殺技や得意なプレイがあることだ。そして弱さは「基礎体力でしょ」ああ」
「せめて京介くんだけでも鍛えたげようと思って最近は私の方が筋肉痛」
「剣城はシードとして厳しい特訓を受けてきたからだと思っていたんだが、の手が入っていたのなら納得できる」
「ま、私も伊達に人材育成してたんじゃないんで。京介くんは教えがいあるいい子だもん」
「妬くな。俺は最近、中学生相手に嫉妬してるんだ。相手は剣城だ」
「あら」
「俺がどんなに望んでも手を取ることすらできない人と一緒にいるんだ。いるだけではなく、話をすることもできる。剣城になりたい。そう思ったことすらなる」
「それ結構重症じゃない?」
「ああ重症だ。それもこれも俺がを愛しているからだ」
「ほんとに私のこと好き?」
「こんなくだらない嘘はつかない。愛している。初めて会ってオニミチと呼ばれた時からずっと、俺の目は遠く離れていてもを見つめているし頭はを忘れない」
「だったら言って、呼んで。・・・・・・助けて、早く私を迎えに来て、私の騎士様」






 信じられなくなった時もあったし正直嫌いって思った時もあったけど、でも、私はやっぱり有人さんがいい。
有人さんに迎えに来てほしい。
子どもを使うのは卑怯かもしれないけど、でも、早く迎えに来てほしいから京介くんだけでも私好みのイケメンサッカーバカにしてるの。
有人さんと呟いたが、机にわずかに残されていたスペースに手をつく。
いつも強くてたとえ弱くても強がっていたが、やっと弱さを見せてくれた。
やっと強がっていることをやめてくれた。
大切な人1人守ることもできずにもがいている不甲斐ない男を、はまだ見捨てないどころか頼りにしてくれている。
何も救えていないのに騎士と呼んでくれる。
不器用だから遠回りもできないがそれでも必ず辿り着いて、俵抱きにしてでも連れ戻す。
鬼道は椅子からゆっくりと立ち上がると、何かを求める熱の籠った瞳でこちらを見つめているの頬にそっと手を添えた。
愛している、
聞きたくてたまらなくて、返事を返したくて仕方がなかった言葉を聞き頬を緩めたの『私も』という返答は、声になる前に自分ではない人の唇に浚われた。






昨日はお楽しみでしたね!






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