夢をここで終わらせるわけにはいかない。
今この瞬間を全力で戦うことはとても大切だが、全力で戦っているのは次も戦いたいからだ。
周囲からは10年に1人の天才と言われているが、それに驕ってはいられない。
どんな天才であろうと、試合に出られない天才はただの病人だ。
雨宮はハーフタイムのミーティングを終えロッカールームから出ると、グラウンドへの通路の壁にもたれかかっていたに歩み寄った。
がフィフスセクターにいるのかどうかは知らないが、ここにいるということは彼女はやはり聖帝と何らかのかかわりがあるのだろう。
雨宮は大丈夫と心配そうに声をかけたに、とびきりの笑みを見せうんと答えた。





さん観に来てくれてたんだね! どうどう、俺のプレイいけてる?」
「うん、名前負けしてないすごさだったよ。ほんとにすっごくキラキラしてて、みんなの中で雨宮くんが一番輝いてた」
「天馬が本気を出しても出さなくても俺は勝つよ。次もプレイできるからわからないから。一つ一つを全力で戦うのが俺のポリシーなんだ」
「ま、それが当然だけどね。でもね雨宮くん、確かに今は大事だけど先のことも少しは考えなくちゃ駄目。イシドさんからは何も言われてないの?」
「後半はとっておきのことをするんだ。たぶんさんもびっくりするよ」
「雨宮くん、私はもう充分びっくりしてる。私は雨宮くんの体が心配なの」
「へへっ、さんみたいな綺麗な人に心配されるなんて俺照れちゃうよ。・・・俺が今ここにいるのは戦うためで、それ以外の理由なんかない。大丈夫だよ、俺は1人じゃないから」





 1人で頑張りすぎると駄目になるってわかってるから俺は人の手を借りてフィールドに立っていたいし、そのために仲間っていると思うんです。
そうきっぱりと言い切る雨宮に何も言い返せない。
いつもふらりとベンチに現れては言いたいだけ言って去り、チームの輪に加わろうとしないこちらには耳の痛い話だった。
イシドにだって本当は鬼道や円堂たちと堂々と手を組んで対抗する道があるのに、1人で戦っている。
助けてと口では言っているのに、大人しく助けを待っていられず一人で突き進んでしまう。
本当は戦うヒロインになどなりたくない。
甲斐性があってこちらにたんと尽くしてくれる中身イケメンにちやほやされながら過ごす予定だったのに、尽くされるのは退屈とばかりに動き回ってしまう。
はチームメイトに背中を叩かれグラウンドへ向かう雨宮の背中を見つめた。
決して広くはない雨宮の背中が、大きく輝いて見えた。


































 気まぐれな人だ。
きっとあの人は、フィフスセクターや革命などとは違う次元で純粋にサッカーを楽しもうとしているのだと思う。
周囲に流されていながらも自己の道を見失わない強さにイシドは惹かれ、自らもまた目が離せなくなってしまったのだろう。
本当はずっとこちらを見ていてほしい。
の視線を常に釘つけにできるようなプレイをしていたい。
10年に1人の天才に注目と視線を奪われないような力が欲しい。
は本当に気まぐれだ。
今日はこの人と決めた選手をずっと見続け、注目された選手は新たな力に目覚める。
イシドは、自分にはを独り占めすることができる秘策があると言った。
しかし、いつ言い出せばいいのかわからない。
こちらがイシドを豪炎寺修也だと認識した日と同じ日から、は少しだけ変わってしまった。
いや、正確に言えばは何も変わっていないのだと思う。
が変わったと思うようになったのは、こちらがイシドとの関係を知り、それによりこちらを眺めるが自分を通して誰を見ているのか気付けるようになってしまったからだ。
正直、気付きたくなかった。
には自分に似た誰かではなく、自分そのものを見てほしかった。
人は誰かの代わりにはなれない。
なぜ神童は神童として見ているのに、こちらのことは『幼なじみによく似たことやってる京介くん』としか見てくれないのだろうか。
誰かの何かでいたくない。
剣城はの注目を浚い、決勝点を挙げるべく単身敵陣に切り込んだ神童を凄まじい力で吹き飛ばした雨宮の化身を睨みつけた。





「あれが・・・」
「剣城、あれが何か知ってるのか?」
「チームの力を雨宮の化身に送り込む化身ドローイングです。できる奴がいるとは聞いていたが、雨宮がそうとは・・・」
「・・・道理であの人が雨宮を見ていたわけだ。悔しいか、剣城」
「は?」
「俺も悔しい。関心を示さないんだ、悔しいし何をしたって振り向かせたい」
「・・・」
「想ってる相手は違うし観てる相手も違うだろうが、俺は挑戦したい。雨宮にできることが同じ化身使いの俺たちにできないわけがない」





 どきりとした。
神童が同じ相手のことを指しているのかと思い、一瞬焦った自身を恥じた。
1人では駄目でも、力を合わせれば取り戻すことができるかもしれない。
正確無比のコースを読む神童の奏者マエストロと、圧倒的な跳躍力を持つ松風の魔神ペガサスアーク。
そして、突破力と決定力ならば誰にも負けない自負がある剣聖ランスロット。
何もかもに秀でた雨宮の太陽神アポロには総合力では劣るかもしれないが、三者のいいところを結集すれば突き抜けた3つの長所でアポロに打ち克つことができる。
呼吸を揃え呼び出した神童たち3人の化身が一か所に集まり、大きな光の中からアポロに劣らぬ見たことのない化身が姿を現す。
負ける気がしない。
奪われる気がしない。
取り戻し、あるいは奪えると確信した。
誰が付けたか魔帝グリフォンの名を冠す化身がアポロを吹き飛ばし、勢いそのままに新雲学園のGKが化身と共に守るゴールへ決勝点を叩き込む。
勝てた。あと一歩のところまで近づけた。
試合終了の笛が鳴りがグラウンドへ足を踏み入れようとした直後、VIP席のイシドが血相を変え立ち上がったのを剣城は見逃せなかった。






書いてる人は、書いてるうちに雨宮くんが思いの外好きになったらしい






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