26.誰がための革命










 昔、厄介事に巻き込みたくなくて良かれと思って遠ざけていたら、思った以上にこちらが不足に参った挙句に悲劇が起きたことがあった。
あの時は自分の代わりに身を挺して守ってくれていたらしいクラスメイトに殴られやっと我に返ったほど、自分自身が不甲斐なくて情けない存在だった。
何も見させないようにすることが守ることではない。
綺麗な手のまま守れはしない。
多少手を汚してでも庇わなければならない時がある。
そう10年前に教わったから今は遠ざけるどころか厄介事の一番近く、つまり自身の傍に置いてみた。
不足にはならなかったが、二度と得られないものを確実に失った。
しかし、それでも守り庇えていたから失ったものに未練はなかった。
はいつまでも自分のものではない。
確かに昔はなんだかんだでいつもサッカーその他に付き合ってくれていた影であり光であり分身のような存在だったが、今はもう違う。
昔は一緒だったが今は一緒ではない、けれども変わらず大切な人。
今度こそ守り切れると思っていたが、あと少しというところで守りきれなかったことに豪炎寺は自身に猛烈に苛立っていた。
だから俺はいつも詰めが甘いのだ。




「ドラゴンリンクは彼女、さんも認めた最強のチームだ」
「私そんなこと言って「言いたければ言えばいいと言ったのはあなたでしょう。彼らの強さは知っているはずです」
「知らないわよそんなもん・・・」
「今は知らずともすぐにわかります。あなたの目は現実しか見ることができないのだから」





 今すぐ消えてしまいたい。
今までのように言いたい放題言ってしまいたいが、何から言えばいいのかわからない。
ドラゴンリンクはおそらく全員が化身を操る特別な特訓を受けた選手たちだ。
ゴッドエデンでの特訓など生易しい、もっと過酷な教育を施された末に眠っていた力を表に引き出されたのだと思う。
どんな形であれ、才能を開花させることができたのは本人たちにとっては喜ばしいことなのかもしれない。
しかし、せっかくの才能をきつく縛られた世界でだけ使うのではいささか舞台が狭すぎる。
千宮路は彼らにサッカーをするプレイを与え化身を使えるようにしたことを誉れと思っているようだが、それは所詮彼の独りよがりの自慢に過ぎない。
選手たちの活躍を本当に考え願っているのならば、彼をもっと広い世界に羽ばたかせるべきだ。
監督やコーチとは選手を意のままに操る操り人形ではなく、より広大で厳しい世界へ送り出す整備士だ。
千宮路のような指導者に従う選手たちは、今以上の強さを得ることができない。
そう言ってやりたくてたまらないのに何も言えないのは、フィールド上の可愛い教え子たちが次々に倒されているからだ。
ドラゴンリンクはドラゴンとではなく千宮路と繋がっている。
千宮路に管理されている彼らは、千宮路の一声で雷門イレブンを更に追い詰める。
そして今の雷門はドラゴンリンクに対抗する術がない。
はぎゅうと拳を握ると、小さく京介くんと呟いた。





「あなたはこちらでは剣城くんを指導していたそうですね」
「・・・はい」
「一流の指導者に教えを乞いながらこの様とは、彼もこちらに残っていれば良かったものを」
「私は今の京介くんの方が好きよ、歯応えあって」
「ほう? しかしそれは贔屓目というものでしょう。現に今の彼は起き上がることすらできないほど傷つき弱っている」
「あれは精神を集中させてんの」
「強がりですか」





 腹が立つ。
自分が貶められるならまだ許せるが、落ち度がどこにもない剣城を悪く言われると我慢できない。
雷門は完成されていない未熟なチームだから苦戦するのは当たり前だ。
松風が馬鹿としか罵りようのない愚策で剣城や錦たち自チームの化身使いたちの体力を無意味に削ぎ2点の追加点を奪われたのも、彼らが成長しきっていないひよこチームだからだ。
悔しい。
何ひとつわかっていない千宮路に悪しざまに言われるのが悔しくてたまらない。
張り手を飛ばしてもいいだろうか。
なんとなく大人の許可を得た方がいい気がして豪炎寺を顧みると、こちらの心中などまるで読めていないだろうに首を横に振られる。
豪炎寺はFWの癖に慎重派だ。
ちなみに隣の同じくFWの虎丸も、駄目です駄目ですと言わんばかりに激しく首を横に振っている。
大の男が2人してビビりでみっともない。
しかし、暴力沙汰を起こしてもいいことは何もないので向こうがこちらに手を出すまでは張り手は封じておいてやろう。
大丈夫だ、剣城も今は疲れているがすぐに復活する。
錦も、染岡とこちらの雷門イタリア支部2人に教え込まれたのだからこのくらいでへたれるわけがない。
松風もそのうち目を覚ますはずだ。
見てくれを気にしていては勝てる試合も勝てない。
化身がいるから勝てるというのであれば、雷門はホーリーロード一回戦で既に敗退していた。
松風はこちらがまったく関心を示さないフツメンのただの赤の他人だったから言い聞かせたことはないが、サッカーも人間も見た目ではない。
そりゃあ世の中には風丸のように内も外も優れまくった超絶イケメンプレイヤーもいるが、そんなものは風丸くらいしかいないのだからただの中学生に風丸になれと言うのは無理な話だ。
ちなみにフィディオも風丸タイプのスーパーイケメンプレイヤーだ。
選手だけでなく、プレイスタイルも派手地味にこだわる必要はない。
慣れた形があるのならそれが結局どのチームに対しても一番臨機応変に対応できて優れているのだから、相手の派手な化身プレイに合わせてやらずともいいのだ。
やりたいなら勝手にやっておけと言えるくらいに大人になることができれば、松風もキャプテン業が板についたと言えるだろう。





「千宮路さん、ちょっとしたショー見せてあげましょうか?」
「ショー?」
「試合を見通すミネルバの羅針盤、この試合が向かう先教えてあげましょうか?」





 今日は情緒不安定と寝不足が災いして少し時間がかかったが、今ならはっきりと見ることができる。
これを聞けば千宮路はきっと憤慨するだろうが、仮に手を上げられてもこちらには豪炎寺がいるからどうとでもなる。
いついつまでも幼なじみにぞっこんで手放したがらないクールぶった甘えたの豪炎寺だ、可愛い可愛い女の子が乱暴されようとしているのを黙って見ておけるはずがない。
はすうと息を吐くと、充電が完了しよろよろと立ち上がった剣城を見つめにいと笑った。







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