27.「フラ」フラしている人を繋ぐ金「具」、略してフラグ










 最後の最後まで人を好き放題振り回す極悪非道の男だ。
展開についていけず混乱しているのをいいことに、あれこれを言いたい放題言って勝手に黒歴史を漂白どころかデリートしようとした馬鹿には腹が立つ。
ふざけんなとか馬鹿とかアホとか罵ってやりたいが、悔しいことにこちらにはそれができるだけの度胸はない。
ただ黙って受け止めて、吐き出すこともできずに俯いたままだ。
気持ち悪い、吐き気を催してくる。
豪炎寺はこれで本当に終わらせるつもりなのだろうがそうはさせない。
もうおしまいよと先に言ったのはこちらだが、昔と今とでは状況が違うのではいそうですかと簡単には頷けない。
それに、こちらは豪炎寺ごときに捨てられるほどの女ではない。
豪炎寺の分際で別れを切り出すとはどういう料簡をしているのだ、頭が高い。
いつしか悲しみから怒りの悔し涙へと涙の意味を変えたことに気付かず、の顔を覗き込んだ豪炎寺が困ったように笑う。
泣いてるのか。
そうわかりきったことを呟いた豪炎寺の声を聞きつけ、血相を変えた鬼道と円堂が聖堂山ベンチに駆け寄る。
お前どうして泣かせちゃったんだよ、ほんと最悪な幼なじみだな!
彼女を泣かせるほどに酷いことを言ったのか、前に出ろ豪炎寺。
鬼道はいつまでを他人行儀な呼び方してるんだ、お前がフランクすぎるだけだ今すぐ呼び方を改めろ。
わいわいぎゃあぎゃあやんややんやと喧しい。
乙女の涙も引っ込むわ。
は涙の理由とやらをおそらくはしたり顔で話し始めたであろう豪炎寺に、ぴたりと涙を止めた。





「ずっと俺に振り回されていたのがやっと解放されての嬉し泣きだろう」
「そうかあ? ってそういう子だったっけ?」
「俺が付き合って知った彼女は嬉しい時はとてつもなく喜び笑う人だ。泣きなんかしない」
「鬼道はを泣かせたことないんだ」
「ないな。俺は彼女がいつまでも笑っていられるようにしているからな。どんな理由であれ、大切な人の顔を歪めたくはない」
「スッゲー、鬼道かっこいい!」
「そんなものはただの理想だろう。泣いているだ。現実を見ろ、昔と違って多少は感情表現や思考回路が成長したは現に今嬉しくて泣いている」
「・・・わ」
?」
「泣いてないって言ってんでしょ、このボケサッカーバカが!」




 久々に正拳突きを決めた。
鳩尾に深く入った拳に豪炎寺がじりじりと後退し、しゃがみ込む。
決まった、決めてやるに決まっている。
はきっと顔を上げると、突然の反逆にぎょっと目を剥いている円堂と鬼道を睨みつけた。




「どいつもこいつも言いたい放題。何よ円堂くん、私が泣きもしない鈍感とでも思ってたわけ?」
「いや、そうじゃないけどその、なんかごめん!」
「有人さんだってそう! 私が我慢してるだけで有人さん実は相当私が泣きそうになるようなことやってるからね!」
「そ、そうなのか!? すまない、許してくれ・・・」
「大体有人さん悔しいとかジェラシーとかそういうの感じないわけぇ? 修也がさんざ私のことって呼んでんのに有人さんいつまで私のこととか彼女とか呼んでんの。有人さん私のこと名前で呼ぶのって寝「わかった! わかったから今はそれは言うのはやめておこう!」





 落ち着こう、どうどうと制止を求められむうと押し黙る。
は腹を押さえうずくまったままの豪炎寺を見下ろすと、あんた何様のつもりなのと冷ややかに言い放った。





「もうおしまい、終わりぃ? それ言ってる時点でまーた私を振り回してるってわかってる?」
「でもそれが俺とのためにはいいと思ったんだ・・・」
「ばっかじゃないの? 振り回され続けた人生で最近やっとそれが日常になったんだから、それを今更なかったことになんかさせないで。私に係わりたくない? そんなのこっちだって同じよ、二度と私の前にそのチャラついた格好見せないで」






 散々人をサッカー漬けにしといて自分はサッカーやめようとするなんて信じらんない、責任取れっての。
はそう一気に言い切ると、ふうと大きく息を吐き剣城たちへと視線を向けた。
怒りですっかり忘れていたが、そういえばまだ剣城たちに祝福の言葉を送っていない。
ドラゴンリンクとの激戦を制した末にようやくつかみ取ったホーリーロード頂点からの眺めはどんなものだろうか。
決勝戦は楽しかっただろうか。
内容がどうであれ、全力を出して楽しめたのならばそれが一番いい。
最後にコーチ業を放ったらかしにしてしまったが、もう剣城には子守も専属コーチも必要なさそうだ。
視線に気付いたのか、剣城がこちらを振り返ると駆け寄ってくる。
お疲れ様京介くん。
の労いの言葉に、剣城が小さく笑い返した。







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