アンリミテッドシャイニングに打ちのめされ、再教育されるために牙山たちに連行されようとしたところに煙幕が張られた。
煙の中から誰かが現れたことは覚えているが、記憶はそこで途切れている。
ここはどこだ、なぜ目を開けているはずなのに視界が暗い?
ぼんやりとしたままの頭を振り覚醒させると、少しだけ周囲がよく見えるようになる。
真っ暗だと思っていたが、奥の方で太陽ではない明かりが灯っているとわかる。
剣城は痛む体を引きずり暗闇の奥へと向かうと、そこで待ちかねていた人々に絶句した。
伝説が目の前に勢揃いしている。
なんとかこれはと言葉を絞り出した剣城は、円堂の気付いたみたいだなと尋ねる声に小さく頷いた。
「円堂、監督・・・?」
「円堂監督たちが俺たちを助けてくれたんだ。驚いたよな、伝説のイナズマイレブンがこんなにいるなんて」
「・・・いやキャプテン、この人は雷門イレブンじゃないはずです・・・」
「ああ? 俺にケチつけるたあさすがに元シード様は言うことが違うな!」
「なっ・・・」
「やめないか不動、事実に腹を立てて子ども相手にみっともないぞ」
「はっ、風丸クンは変わってねぇなあお堅いことで」
「あなたがあの風丸一郎太・・・」
円堂とは何度も顔を合わせているから当然なのだがなぜだろう、風丸とも初めて会った気がしない。
風丸は国内プロリーグで活躍する俊足のDFで、彼の姿はもちろんテレビや雑誌で見たことがある。
しかし、それだけではないのだ。
風丸とはもっと強烈に出会っている気がする。
悩むこと10秒、あっさりとデジャヴの原因を突き止めた剣城は風丸にあのと控えめに声をかけた。
「・・・後でサイン1枚もらってもいいですか」
「え、俺の? でも君はFWだろう。円堂から話は聞いてるよ、すごくいい選手だって」
「俺じゃなくてその、俺の知り合いにあなたのことが病気じゃないかって思うくらいとにかく好きすぎてる人がいて、できればその人の名前を書いてもらえたら・・・」
「へえ、みたいな子だな」
「そう、っていう・・・え?」
「ああやっぱりなんだ。こっち戻ってるとは聞いてたけどへえ、会いたいな」
って今も可愛くて元気いっぱいで可愛いんだろー。
昔からそうだったもんなー、とにかく可愛くて元気で一生懸命やってるようには見えてないけど本当は誰よりも周りのこと色々考えてくれる頑張り屋さんで可愛かったもんな、円堂!
そうかな、俺は気付いたら夏未しか見えてなかったからなえへへへへ。
もうキャプテンデレデレっすよー、わりぃわりぃ壁山!
なるほど、が風丸くん風丸くん風丸くん風丸くんと慕い続ける理由がよくわかった。
重症になって当然の甘やかされ方だ。
あの人のどこを見たら甘やかしたくなるのかまったくわからない。
ああいう人は一番甘やかされたらいけないタイプだというのに、はよりにもよって一番甘やかしてはいけない人から甘やかされて青春時代を送ったらしい。
やはりサインを頼むのはやめた、こちらも危うくを甘やかすところだった。
剣城は風丸にやっぱりいいですと告げると、円堂へと向き直った。
「円堂監督たちはどうしてここに?」
「俺は白恋戦の後吹雪から話を聞いて、フィフスセクターの事実を知った。少年たちを閉じ込め究極のプレイヤーを生むゴッドエデンの存在を知ったのもその時だ。サッカーは強制され、苦しみながらやるものじゃない。俺は少年たちを解放したい!」
「俺たちはここには調査で来ていたんだ。まさか後輩たちに会えるとは思ってなかったよ」
「後輩思いな先輩たちに感謝するこった」
「不動さんは別に雷門の先輩じゃないっスけどね」
「監督、葵たちや鬼道監督、音無先生はたぶん捕まえられたんだと思うんです。俺すごく不安で・・・」
「音無がいるから鬼道も馬鹿なことはしないと思うけど、鬼道いないとゲームメークは俺も不安だから早く解放したいな」
「キャプテンよう、俺のこと忘れちゃねぇか?」
「さっきの戦い、鬼道監督がいなかったおかげで俺のゲームメークはまるで歯が立ちませんでした・・・。さんもいないし・・・」
サッカー部によく顔を出したりするけど何の関係もないさんまで巻き込んでしまって、俺は、俺は・・・。
自身を責め涙腺が緩み始めた神童を霧野が肩を抱き慰める。
今、聞いてはならないフレーズを神童の口から聞いてしまった気がする。
風丸や不動と顔を見合わせた円堂は、辛うじて涙が零れるのを抑えている神童に再び念を押すように尋ねた。
「・・・も捕まってるのか?」
「・・・う、うっ・・・」
「ここにいないので、おそらく鬼道監督たちと同じように捕まったんだと思います」
「「終わったな」」
「相変わらずは元気だなあ。ははっ、助けがいがあるじゃないか」
「風丸クン、あんた何年ちゃんバカやってんだよ。ああ畜生、鬼道クンだけに任せられるか。キャプテン、俺は今から本気出すぜ」
「素直じゃないなあ・・・。は不器用でも素直な奴が好きなんだぞ。だから鬼道だったんだよ」
「何が鬼道監督・・・なん・・・ですか・・・?」
「何がって、だから「言わせたくねぇよ!」
が地球上の生きとし生けるすべての有機物の中で最も信頼を寄せる風丸にその単語を口にされたら、向こう半年は風丸の発言がフラッシュバックしてろくに眠れそうにない。
大体、恋と変の字を書き間違えるミスをしがちなガキどもに大人の恋愛事情など教えてやる必要はないのだ。
知らない世界に興味本位で首を突っ込んでも泣きを見るのはこちらだ。
実は私有人さんと婚約したのほら見てこの指輪とある日突然指輪を見せびらかされた日を、不動は死ぬまで忘れられそうになかった。
「さっきの戦いはちらっと見てた。お前たちは今のままじゃ勝てない! 強く鳴ろう、強くなって、そしてゴッドエデンの地で革命を起こそう!」
「強くなるってどうやって・・・?」
「何のために俺たちがいると思う? みんな、明日から覚悟しとけよ!」
サッカーだけやっててもサッカーが上手になるわけじゃないんだよ。
自信たっぷりにそう言い切った円堂に、剣城たちははいと大きな声で答えた。

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