懐かしい空中牢だ、地獄での監禁生活を思い出す。
誰が入れられるのかわからないが、入れたい人がいるから用意させたのだろう。
あそこに入れば鬼道は今度こそ助けに来てくれるのだろうか。
鬼道たちと一緒に放り込まれた牢には今朝訪ねたが、彼らは囚われのお姫様をっ放ったらかしにして逃げ出したのかもぬけの殻だった。
聖帝の隣にいる自分を助けに来るのは再び牢獄に放り込まれに来るようなものなので期待していなかったが、本当に何のアクションも知らされず逃げられると拍子抜けした。
さすがは鬼道だ、何も残さず消えてしまった。
有人さん私みたいだ。
私もなぁんの素振りも見せないで、あの時有人さんにだけまたねって言ってイタリアに帰ってったもんなあ。
どうやら長く付き合っていると性格もどことなく似てくるらしい。
嬉しいようなむず痒いような、とりあえずゴーグルへ並々ならぬ愛情だけは移りたくない。





「私はこれに入ってればいいの?」
「・・・は?」
「だって私がバックグラウンドが面倒な試合の時にこういうとこにいるのってもうお決まりじゃない? やっぱここも踏襲しといた方がみんなの期待を裏切らないじゃん」
「それは嫌味を言っているのか」
「は、どこに嫌味があるの? ていうか私じゃないなら誰を放り込むわけ。自分で言うのもなんだけど、私以上に監禁プレイに慣れて似合いまくってるお姫様系ヒロインなんていないわよ」
「世代交代の時期だ」





 なんという言いがかりだ、世代交代など言われてはまるでこちらが随分と歳を食ったようではないか。
確かにもう中学生ではないが、まだまだぴちぴちの24歳だ。
むしろこれからが本番だ。
いたいけな中学生を牢獄に放り込むなど父母教師会が黙っていないし、お偉い機関から目をつけられたら釈明もできない。
ここは大人の魅力満載の綺麗なお姉さんを監禁プレイすべきだ。
逃げ遅れたのか囮にされ取り残されたのか、牢の前へ連れて来られた半泣き状態のサッカー部マネージャーの1人を目にしたは猛然とイシドに詰め寄った。





「泣いちゃってる子入れてどうすんの! ほらよしよし泣かない泣かない、えーっと・・・」
「空野、葵、です」
「そう葵ちゃん! どうすんの女の子泣かせて、イシドさん泣いた女の子泣き止ませるような甲斐性どうせ今も持ってないんでしょ!」
「すべての女性の涙に狼狽えるほど私は節操なしじゃない。私が狼狽えたのは後にも先にもあれ一度きりだ」
「そういうこと堂々と言わない! あーもーどうすんの、牢に入れられるのとか怖いよねえ、私も初めての時は怖かったわぁいい加減慣れたけど」
「わたっ、私のせいでっ、天馬たちが不安にいなったり全力出せなくなるのは、嫌でっ!」
「よーしお姉さんいいこと考えた! 大丈夫よー葵ちゃん、お姉さんも一緒に入ったげるからねー」
「「えっ」」
「驚くこたないじゃない、慣れてなくて怖いってんならベテランが付き合ってあげたらいいだけでしょ。葵ちゃんが新世代のヒロインで私の役奪おうってんならそれがどういうことなのか教えたいし、大丈夫監禁プレイなんて3回目くらいから慣れすぎて怖さとかなくなっちゃうから」





 それに私が捕まることに同じく慣れきってる有人さんとかここにいるらしい円堂くんなら私がいても容赦しないでしょ、これが年の功。
葵や提案者のイシドもぎょっと目を剥いている間にちゃきちゃきと予定を決め、葵の肩を抱き自発的に牢に入るには誰も逆らえない。
正気かとイシドが尋ねても、本気よとしか返ってこない。
駄目だこいつ本気で正気を失っている、イタリアに逃がしてから馬鹿に磨きがかかってしまった。
だから嫌だったのだ。
自分という名の口うるさい監視者がおらずフィディオやその他女の子大好きなイタリア少年たちに連日ベタベタにが甘やかされ、挙句が更に手の施しようのない馬鹿になるのが。
こいつのどこがお姫様系ヒロインだ、デストロイ系ヒロインの聞き間違いだと思いたい。
イシドは自身の反論にも耳を貸さずクレーン業者に牢の中から直々に命令し牢を所定の位置まで吊り上げるよう指示を出すに、逆ギレ気味に勝手にしろと言い放った。









































 何をどうしたらああなったのかわからないが唯一、がまた滅茶苦茶なこと言ったのだということだけは理解できた。
お前の嫁さんほんとに敵の手に落ちやすいよな、限定の落とし穴でもあるのかな。
冗談だと笑い飛ばせない冗談を牢を見上げながら引きつり笑顔で言う円堂に、そうかもしれないなと答えるしかない。
をイシドに連れて行かれてしまったのは自分の落ち度だが、まさかあの時連れ去られたことが今日の牢獄での再会になるとは思いもしなかった。
いや、イシドもきっとがあの中に入るとは思っていなかっただろう。
ゴッドエデンとは名ばかりの地獄と呼ばれているから、は今日も牢の中なのだろうか。
怯える葵とは対照的にひらひらとこちらに手を振っているの貫録が凄まじい。
普通は葵の反応だ。
鬼道の隣に歩み寄った不動は、目を細め牢を仰ぎ見るとやっぱ美人だなと呟いた。





「やっぱちゃんいい女だな、あの図太さたまんねぇ」
「人の妻を変な目で見るな。それに彼女は繊細な人だ」
「あれ見て繊細とは言えねぇな。ちゃん、多少変なもん食わせても腹とか壊したことないだろ」
「・・・・・・」
「どうなんだよ、知ってるだろちゃんの男なんだから」
「強靭に見えるが本当はすごく繊細な人なんだ・・・!」
「ないんだろ。やっぱすごいわちゃん、セレブの嫁にはもったいない」




 今からでも遅くはない、お前らギクシャクしてそうだし隙どころか穴だらけだから後で誘ってみるか。
ひゅうと口笛を吹き定位置のベンチへと戻る不動の背中を、鬼道は刺したい思いで睨みつけた。
が丈夫なのは、家の両親がを大切に大らかに育ててきたからだ。
どうせまた自分への子どもじみた対抗心ではないのだろうか。
ずっとベンチにいてもうるさい男だ、そうやって喧しいからに本当に伝えたいことが何も伝わらなかったと今も気付いていないに違いない。
鬼道は不動たちが待つベンチに戻ると、久々に監督の座に復帰した円堂へ視線を移した。
円堂や風丸たちは、一度アンリミテッドシャイニングとやらにずたぼろに倒された神童たちを鍛え直したらしい。
どんな特訓をしたのかは牢に入れられっぱなしだったこちらには知る由もないが、面倒見のいい風丸や人一倍努力する吹雪、見る目だけはある不動や人懐こい壁山が指導したのだから
確実に特訓の成果は出ていると思う。
今からの戦いはただの戦いではない。
神童たちの革命を続けるための包囲突破戦と、と葵を救出する戦いだ。
子どもたちにばかり負担を強いるのは辛いが、彼らにしか任せることができない。
特訓で自信をつけた神童たちが、チームメイト以外観客もすべて敵のフィールドへと駆けだしていく。
キックオフ直後から発動された神童の神のタクトがあっさりと破られ攻撃の要剣城も軽く吹き飛ばされるのを見た鬼道は、神童たちを絶えず襲うであろう苦戦を思い腕を組んだ。





「相手が違うみたいだが」
「どうも天馬たちが島の中で会ったシュウって子たちのチームと合体してるらしい。化身や必殺技がなくてもうちを倒せるって高を括ってるみたいだ」
「3分で0対1、厳しい戦いになりそうだな」
「へっ、怖じ気ついてんの鬼道クン?」
「いいや、楽しみなだけだ」





 係わったことのないシュウたちの実力はわからないが、アンリミテッドシャイニング側の選手たちの中では白竜が最も優れているらしい。
彼が操る化身聖獣シャイニングドラゴンは、神童の奏者マエストロを触れるだけで吹き飛ばしランスロットを一蹴し、ペガサスのパンチを余裕で見切り避ける巨大かつ俊敏な化身だ。
化身を使う3人ですら歯が立たないものを、雷門中DF陣が食い止められようはずもない。
三国守る雷門ゴールにあっという間に追加点を叩き込んだ白竜は、剣城を顧みるとこれが究極の力だと叫んだ。





「キャプテン、あいつら強くなってませんか・・・?」
「ああ・・・」
「強くなったんじゃないです、あいつらは元々あのくらい強いんです。この間は俺たちが弱くて、あいつらが本気を出す前に俺たちが力尽きたんです」
「つまり、俺たちは今は奴らに本気を出せているということか」
「今はまだ全力じゃないでしょう。でも俺は昨日までの特訓の結果がこんなものとは思っていません。俺たちはまだ特訓の成果を出し切っていません」





 早く特訓で得たものを実戦に活かしたいが、今は皆ゼロの圧倒的なスピードとパワーに慣れずついていくことに精いっぱいだ。
ぼろぼろにやられるのも何度も倒されるのも、まだ相手のペースに飲み込まれているだけだからだ。
雷門イレブンを甘く見てはいけない。
逆境でしかサッカーボールを蹴ってこなかった雷門中サッカー部員は、飲み込まれた中で暴れ狂い相手のペースをじわじわと乱していく強かな連中ばかりだ。
牢の中で泣いている葵だってすぐに笑顔になる。
のことはもうさして気にしていない。
あの人はどこへ行っても生き抜くことができる逞しすぎる人だ。
ゼロに圧倒され翻弄され続けた前半を終えた神童たちは、ベンチに戻り円堂の指示を仰ぐと気持ちを切り替えた。







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