女神の御手は確定演出
おそらく、いや、確実に非合法な手段と角度から撮影されたであろう写真に映る少女を眺める。
友人らしき少年と親しげに語らっているその姿は、当然カメラ目線ではない。
砂木沼は、写真と同じ角度で前方の少女を観察できるよう張り込みの位置を変えた。
写真で見るよりもずっと愛らしい容姿をしている。
見た目に騙されてはいけないとヒロトや南雲、緑川は何度も忠告はしてくれた。
知った仲ならと助力を乞うたが、皆一様に首を横に振るばかりだった。
曰く、「もう不審者にはなりたくない」。
中学2年生の純粋な心に癒えようのないトラウマを植え付けたなる少女と、今まさにコンタクトを取ろうとしている。
砂木沼は大きく深呼吸すると、おつかい帰りらしいの前に立ちはだかった。
突然脇道から現れた長身の男に対応できなかったのか、が思いきり足を踏む。
あ、やば。
慌てて顔を上げたを砂木沼は黙って見下ろした。
騙されてもご褒美なのではと思えるほどに整った顔の、ぱっちりとした瞳に自身の仏頂面が映っている。
「ごめんなさい、前見てたつもりなんだけど足踏んじゃった」
「いや、こちらこそ申し訳ない。気にするな」
「そ? でも後で痛くなったりしたら大変だからはいこれ、湿布」
「湿布」
「うん。あ、貼ったげようか?」
「いや、そうではなく・・・」
湿布を常備している女の子に初めて出会った。
絆創膏を持ち歩く人は多く見かけるが、彼女の身辺にはいったいどんな危険が潜んでいるのだろう。
通学路に打ち身をしやすい箇所があるのなら、早急に学校か行政に連絡して対応してもらった方がいい。
砂木沼は屈託ない笑顔のの手から湿布を取り上げた。
「そ、そうだ・・・。今、この商店街ではちょうどふくびき抽選会をしていてな。買い物をしたなら寄っていくといい」
「そうなの? でも私ふくびき券とかもらってないし、お店の人も何も言ってなかったよ」
「ぜ、全員が対象ではないのだ! 買った金額を16で割った時の余りの数が・・・」
「その話長くなる? ていうかお宅誰、ストーカー? ふくびきの人?」
「ふくびきの人だ」
ほんとにぃと訝しがるを、出店風の抽選所へ案内する。
お父様の企みを聞き届けてくれ、かつ、南雲たちから先入観を植え付けられなかった大人びた子どもたちが笑顔でを出迎える。
が抽選箱に手を突っ込む。
吟味すらせずおそらく一番初めに指に触れたものを引き抜いたのだろう、シンキングタイムが1秒もなかった。
熟考している間に命が危険に晒されるような過酷な環境で生きているからこその湿布だったのかもしれない。
そんな彼女に朗報を届けたい。
なんとこのふくびき、すべて特賞大当たりだ!
「きゃあ~おめでとうございますう~。特賞、豪華リゾートホテルですう~!」
「えっ嘘マジで? すごーい、リゾートホテルってどこ? なに?」
「吉良サンライズリゾートって言うんですけどお。オススメはデビューの地北海道か、リスタートの地沖縄かなあ~」
「デビュー? 誰の?」
「こら、余計なことを言うな! ・・・吉良サンライズリゾートは、宿泊したすべてのお客様に最高の安らぎと楽しさを提供する極上のホテルだ。ぜひ楽しんでいってほしい」
「ふぅん、予約はどこでもできるんだ・・・。どこ行くかパパたちと相談しよ!」
「ああ、ご家族と素晴らしいひとときを過ごしてほしい。ではこちらの当選者連絡先にお名前など・・・」
「・・・っと! えへへ、ありがと!」
良かった、間違えていなかった。
宿泊券を手にしたが抽選所を去り、姿が見えなくなったと同時に撤収作業を始める。
抽選会などやっているはずがない。
すべてはお父様の「あの子にはご迷惑をかけたから何か罪滅ぼしを」という願いを叶えるためだ。
騙してしまったことへの罪悪感はあるが、吉良サンライズリゾートは本当にいい場所だから満喫してほしい。
それにしても、随分と素直な女の子だった。
話に聞いていたような凶悪さは微塵もなく、極めて友好的な女子中学生だった。
所詮は宇宙人を名乗り日本中のサッカー関係者と全面敵対していた人々の戯言だ。
驕りと立場に依存した言動での機嫌を損ねさせていただけだろう。
さもありなん、彼らは少々無粋なきらいがある。
「あ、思い出した! ねえねえ、ふくびきのお兄さん!」
「な・・・、なぜ戻って・・・。いかん、このままでは我らの計画が!!」
「あれ、ふくびき終わったの? まあいっか、お兄さん的にはどっちがおすすめ?」
「そうだな・・・」
震撼のデビュー、北海道 閃烈のリスタート、沖縄
目次に戻る