番組表は波乱の予感




 出国前に慌ただしく買い込んだお土産をばら撒き、美味しいコーヒーの香りを嗅ぐ。
もっと早く言ってくれればお店も予約できたのにと秋は言うが、洒落たカフェよりも馴染みのある家の方が落ち着く。
プライバシーも守れるし。
忙しいんじゃないのと言いながら向かいに座った秋が、渡したばかりのお土産のリボンを解きながら口を開いた。



「鬼道くんはどうしてるの? 円堂くんたちと一緒?」
「ううん、年末年始の特番の収録でテレビ局に行ってる」
「そうなんだ! どんな番組?」
「食べ比べとか聴き比べとかして、正解を選ぶ番組って言ってた。あっきーとペアなんだって。仲良しだよね~」
「鬼道くん大丈夫かな、消えたりしないかしら」
「消えるの!?」



 テレビに映るために出演し、その番組を観るためにわざわざ来日したのに画面上から消されるとはどんな番組なのだ。
聞けば、以前出演した円堂は早々に消えたらしい。
夫の味覚と聴覚と視覚、美的感覚も含めとにかく五感には何の心配も抱いていない。
問題は相方だ。
不動が足を引っ張ったせいで夫が消されたらどうしよう。
夫はとても清らかな人物で、プロデビューした頃から週刊誌の登場人物になったことは一度もなかった。
警察のお世話になったこともなく、謹慎処分を受けたこともなく、彼が正式な手続きを経てチームを移籍しても事務所に批判の電話が殺到することもなかった。
それに比べて不動はどうだ。
選球眼と女を見る目は疑っていないが、おそらく音も味も匂いもすべて「いいんじゃねぇの」で済ませてしまうド庶民だ。
こちらもド庶民だから不動の気持ちの方がよくわかる。
なぜなら、今でも夫と自分は金銭感覚が少し違う―――。



「何かの手違いであっきーから修也に選手交代できたりしないかな」
「しないよ」
「くうう、なんで有人さんそんなハイリスクな番組選ぶの! もっとこう他にあったでしょ、動くバスの窓にサッカーボール蹴り入れるとか、人間離れした動きするロボットキーパーを躱してシュート叩き込むとか」
ちゃん、日本離れて随分経つのにお正月特番に詳しいね・・・」



 バスにシュートするのもロボットキーパーと戦うのも充分にリスクが高いと思うが、成功を疑っていないは心の底から鬼道の技量を信用しているのだろう。
格付け番組でも心配しているのはもっぱら不動のことばかりで、鬼道が聞けばやきもちを妬いてしまいそうだ。
相変わらず難しい人間関係を構築している。
今回は聞き役で良かった。
一之瀬がいたら大変なことになっていた。



「ま、まあ鬼道くんと不動くんならなんだかんだで上手くいくんじゃない? 2人とも喧嘩はよくしてたけど、息は合ってたよ」
「そうかなあ」
「気になるならちゃんもスタジオに観に行けば良かったのに。イケメン俳優も出演するって番宣でやってたよ」
「行かない行かない! だって私、その俳優さんに誘われたことあるもん」
「うわあ、それ鬼道くん知ってるの?」
「向こうが言わなきゃ知らないままだけど、社会的に抹消はされたくないよね」



無事に番組が放送されるのか、番組存続の問題に拡大してしまった気がする。
秋は呑気にコーヒーを口にするの澄ました顔を眺めた。
ゴシップ歴がある人間の据わった目をしていた。





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