人生最大のモテ期はちょうど10年前、華の女子中学生時代だった。
当時のモテ期が現在まで続いているという点では今もモテ期間中なのだろうが、まさか、中学生にまで告白されるとは思わなかった。
歳の差とか世間体とか、そういったことを考えられないのだろうか、この少年は。
できれば冗談であってほしい。
は神童を見つめ苦笑いを浮かべた。




「神童くん、大人をからかうのは良くないよ」
「からかってなんかいません。俺はさんが好きです、本当です」
「今も昔もそう言ってくれる人結構いたから告白自体には驚かないけど、さすがに中学生相手にそれはねえ・・・」




 できれば、犯罪に巻き込まれたくない生活を送りたい。
どちらが先に好きなろうが、法律は順序など関係なくこちらを加害者だと認定するのだ。
イケメンは好きだが、中学生は当然恋愛対象としては見れない。
中学生のバイオレンスでアグレッシブで、ちょっぴり甘酸っぱい恋愛はもう体験済みなのだ。
今更リプレイする気はさらさらなかった。





「神童くん、そりゃ今神童くんの目の前にいる私は大人の色気と若者のフレッシュさを兼ね備えた超魅力的な女の人だけどさ、
 神童くんがもっとイケメンになる10年後はさすがの私もちょーっと魅力が落ちてると思うの」
「そんなことありません! さんはずっと魅力的なままです!」
「そう言ってくれるとすごく嬉しいけど、やぁっぱ現実ってそう甘くないわけ。だから神童くん、現実見て」
さんは、今のサッカー界に喧嘩売るために雷門に来たって言いました。一番現実から目を逸らしたがってるさんの口から、そういう言葉は聞きたくありません」
「う・・・」





 なまじ頭の回転が速いと、いかにこちらが10年ばかり年長でキャリアがあっても意味がない。
最近の中学生の頭は賢くできている。
中学生に丸め込まれるこちらの知能にももしかしたら少しだけ問題があるのかもしれないが、こういう時こそ現実逃避だ。
は、己が知能指数よりも神童の賢さを高く評価した。
これだけ賢いのに、なぜ神童はよりにもよって10も年上の女性を選ぶのだ。
熟女好き、もしくは教師好きなのか。
いかがわしい性癖など持たない、品行方正で純粋なサッカー部員という印象が少しずつ崩れているような気がしてならない。





さんは俺のこと嫌いですか? 俺みたいに、キャプテンなのに統率力もない軟弱者は嫌いですか?」
「そんなことないよ。神童くん、自分のことそれだけ冷静に自己分析できてるんだから大したもんだよ。でも、もうちょっと自信持てばいいのにってよく円堂くんと話してる」
「自信を持ったら、さんは俺のことをちゃんと見てくれますか? サッカー部員としての俺ではなくて、1人の男として俺を見てくれますか?」
「いや、それはないんじゃないかな・・・。こういうのずばっと言っとかないと後がやばそうだから言っとくね。
 ほんとにごめん神童くん、私にとって神童くんは雷門中サッカー部のキャプテンで、それ以上でもそれ以下でもないの」
「・・・それは、永遠にそうなんですか。俺が大人になってさんのことを好きだと言っても、さんはその時も俺のことを教え子としか見てくれないんですか?」
「神童くん、」





 ああ、この子はどうやら本当に。
は、ありったけの勇気を振り絞って告白しているであろう神童にふっと笑ってみせた。
もしも彼が10年前に中学生をやっていて今と同じ事を当時中学生だった自分に言っていたら、彼を選んでいたかもしれない。
時の巡り合わせが悪かったとしか言えなかった。
たとえ何を言われようと今のにとっての神童は可愛い教え子で、それ以上でもそれ以下でもないのだ。
神童のことも霧野のことも松風のことも、皆を平等に見ることしかできない。
贔屓して見ようという感情すら抱いたことがなかった。
彼のこの心意気を、少しは奴にも見習っていただきたい。
は、次々に暴かれる現ダーリンの不甲斐なさに愛想が尽きそうになってきた。
事ここに至ればもう、発破をかけようという気にすらならない。






「ありがとう神童くん、私のことそんなに好きになってくれて」
さん、俺はあなたを」
「今度からまた、ちゃんとコーチってつけてほしいな。でもって、自分で言うのも悲しいけど確実におばさんロード歩み始めてる私じゃなくて、もっと若くて可愛い子見つけなさい」
「嫌です! さんは、さんを悲しませるような人と付き合ってて楽しいんですか? サッカーも恋愛も楽しんでやるものじゃないんですか?」
「今は恋愛はちょっと休憩中、とか?」
さんの好きな人のことをあまり悪く言いたくありません。でも、俺はさんのことが本当に好きなんです。さんを悲しませたり傷つける人は、俺は嫌いです」

「・・・そこまで言わなくてもいいんじゃないか?」






 不意に聞こえた第三者の声に、神童とはほぼ同時に振り返った。
ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた男は、ににこりと笑いかけた。






アニメもう始まっちゃってるけど、これって続けてもいいの?






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