こんなとこで密会かと間延びした口調で話しながら歩み寄ってきた青年に、がわずかに眉を寄せる。
何しに来たのよと呟き睨めつけているにふっと笑いかけると、青年は視線を神童へと移した。
誰だろう、この人は。
電話の相手とは違う声の主に、神童は警戒心を抱いた。




「へえ、こいつが今の雷門中のキャプテンか。お前好みのイケメンじゃん」
「生憎と、私は教え子をそんな目では見ません」
「そう思ってるのはだけだろ。今も昔もモテモテでなにより」
「ふざけないで」
「・・・さん、この人はいったい・・・」





 ぞんざいな口調で交わされる会話に割り込むと、神童はを見つめた。
腕組みをして難しげな表情を浮かべていたが、神童の問いかけにぴくりと肩を揺らす。
あーだのうーだのと、濁った返事しかしないに先程よりも強く問いかける。
説明したくない、あるいはできないような男なのだろうか。
会話を聞く限りでは、あまり仲が良くなさそうに見える。
なによりも、を苛つかせ場を茶化しているのが気に喰わない。
こちらは大事な話をしているのだ、余計な茶々は入れずに外野は大人しく引っ込んでいてほしい。





「この人は私の親友で、神童くんの先輩の半田。円堂くんと同期の雷門中サッカー部OBなの、一応」
「目立ってなくて悪かったな。で? お前もこいつに惚れたくち? 悪いこと言わない、やめとけ」





 を小馬鹿にしたような発言に、神童は眉をしかめた。
親友ならばもっと、のいいところをたくさん言えばいい。
もなぜ彼のような男を友としているのだ。
とことんまでに男運が悪いとしか思えない。
神童は突如乱入してきた第三者の存在を無視すると決めると、改めてへと向き直った。





さん、俺は本当にさんが好きなんです。優しいところ、サッカーに詳しいところ、全部好きなんです」
「今まで好きになった奴は、大体みんなそう言ってるけどな」
「あなたは黙ってて下さい! 人を好きになることをやめられるわけがない。あなたは、さんの親友をやめろと人に言われたらやめられるんですか?」
「やめるよ、今ならやめられる」
「半田、いつの間に私のこと嫌いになったの」
「嫌いなわけないだろ。なんで嫌いな奴と一緒に住むんだよ」





 本当になぜ、は我が家に転がり込んできたのだろう。
向こうではかなりの高給取りだったというのに、何が目的でここにやって来たのだろうか。
半田は、とその恋人が仲違いだかお得意のすれ違いだかで疎遠になっていることは知っていた。
恋人がどんな人物か知らないわけでもない。
確かに彼はサッカーバカだ。
だが、サッカーバカと同じくらいバカだ。
サッカーにかこつけて最愛の恋人をおざなりにするような、そこまで甲斐性なしではないと思っていた。
信じていたのに、あっさりとを手放した行為には疑念と若干の憤りを覚えたが。





「神童だっけ? お前の気持ちもわかんないわけじゃない。俺だってこいつの彼氏には昔から振り回されてたしな。
 でも・・・・・・、自分は変わる、変わりたい、今のこの関係じゃなくて別のもっと違う仲になりたいって思っても、相手は同じこと思ってるわけじゃないんだよ。は今のままが好きなんだ」
「そうそう、さすが親友よくわかってるう」
「それで・・・、あなたはだから諦めるんですか? さんを変えようっていう気にはならないんですか」
「俺がを変えるにはあと5年いるんだよ。俺たちの友情はそのくらい強くて、でもってそれ以外の道がない」
「半田はいつまでも半田で私の親友だもん、それ以外の関係はお断り。本当にごめんね神童くん、神童くんはいつまでも私にとっては可愛くてかっこいい大事な教え子なの」
「そういうことだ。生まれてきたのがちょっと遅かったと思って、こんなおばさんさっさと諦めろ」





 諦めつかなかったからあいつもずっと追いかけて、やっと追いついて隣を歩けるようになったのに本当に馬鹿しやがって、あいつ。
半田は尚も言い募ろうとしている神童に背を向けると、冴えない表情を浮かべているを伴い雷門中を後にした。






あの人たぶん、さんのこと






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