引っ越し蕎麦って今もあるの?
あってもなくても、ご近所とは仲良くしよう。
Case01: 三角関係再び
~突撃! 隣の好きな人~
シンとが住んでいる家は、最近できたばかりの、つまり新築である。
それもそのはず、今まで彼らには家というものがなかったのである。
住み家を買わねば野宿だった。
幸い軍人、しかもザフトレッドでフェイスというエリートポストにいたシンは、結構多めに貰っていた給料から
難なくマイホームを手に入れることができた。
一文無しはむしろの方だったのだが、幼なじみで超セレブなに、マンションの一室を借りてもらった。
本人は自分でなんとかすると言い張ったのだが、我が家(家の屋敷)に住めばと言われては、言うことを聞くしか選択肢はない。
「シンの家、まだご近所は空き家ばっかりなんだね。」
「うん、できたばかりだから。
そのうちたくさん越してくるよ。
この辺り、1人暮らしや家族連れでも住めるような物件が揃ってるし。」
「そうなんだー。
じゃあ、もうちょっとしたらこの辺も賑やかになるね!」
ご近所付き合いになんとなく憧れを抱いているだった。
プラント最高評議会議長ラクスの前に、キラが立っていた。
ものすごい笑顔である。
ついでに、白服ではなく私服である。
とてもじゃないが、今から仕事を始める人間のする格好ではない。
「ラクス、僕今日は休むね。
もしかしたら明日も。」
「あらあら、理由を伺ってもよろしいですか?」
「僕、引っ越しが今日なんだ。
ほら、引っ越しっていろいろ大変でしょ?
荷物整理とか近所まわりとかさ。」
引っ越しですか、とラクスはほんわかと笑った。
やっぱり引っ越しお祝いとかするべきなのでしょうね。
何がいいのかしら、今度に聞いてみましょう。
イザークさんといつも一緒で、本当にあの人が羨ましいですわ。
ラクスの脳内で、イザークはずるいという結論が弾き出された。
今日のイザークは上司にこき使われ、ツイてない1日を過ごすことになるだろう。
「わかりました。
ご近所の方々とも仲良くなさってくださいね。」
「当たり前だよ、僕がちょっと本気出せばを引き込むくらい簡単だよ。」
「・・・キラ?
いいですか、くれぐれも「じゃあねラクス!!」
時間が惜しいとでもいうように、あっという間に自分の前から去っていったキラの背中を見送り、ラクスはしみじみと呟いた。
「恋は盲目ですわねー。」
そんな可愛らしい事態で終わらせないのが、キラ・ヤマトである。
昼間の閑静な住宅街がほんの少し慌ただしくなり、は読んでいた本から目を放した。
そっと2階の出窓から外を見やる。
引っ越し用の大きなトラックが、シンの家のすぐ隣の小さな家の前に停まっている。
従業員たちがせっせと家具を運び込んでいる。
かなりの量だが、何人で住むのだろうか。
は住人となるであろう人物の姿を探した。
トラックの影になってよく見えないが、なにやら指示をしているので、おそらく彼がこの家の主となるのだろう。
若い男性のように見えたが、新婚さんとかだろうか。
「お隣さんだ・・・、どんな人なんだろ・・・・・・。」
は嬉しそうに言うと、読みかけの本をパタンと閉じた。
から貰ったお菓子作りの本だったが、いきなり素人がチャレンジするにはちょっと難易度が高そうだった。
これをフル活用するのは、もう少し先のことだろう。
「引っ越ししたてってご飯作るのが大変なんだよね、台所とか荷物だらけで。
後で会う機会あったら、さりげなく差し入れしよっと。」
今日の晩御飯はカレーにしようとが冷蔵庫の中のストックを確認した時、インターホンが鳴った。
急いで付属の受話器を手に取るが、画面も音声も流れない。
どうやら故障しているようだ。
「はーい。」
玄関へと小走りで向かう。
ドアの向こうからこんにちは、と言う男性の声がする。
見ず知らずの人(男)と無防備に面会するのは危ないのでやめるようにと注意されていたが、今は仕方がない。
はゆっくりと、少しだけドアを開いた。
茶髪に紫色の瞳をした端正な顔立ちの青年を見て、ぎょっとした。
なんでここに、とまず思った。
むしろ叫びそうになった。
「こんにちは。
ちょっと見ない間にまた可愛くなっちゃったね。」
「キラ・・・・?
え、どうしてここがわかったの・・・?」
「わかっただなんてひどいなぁ。
偶然だよ、たまたま。
僕、今日からの家の隣に住むんだ。
これからよろしくね。」
そういうとキラはにっこりと笑って、を玄関へ押し戻した。
そして自らもシンの家に侵入する。
「キラ、なんで入ってくるの。」
「え?
だって今ここはシンいないんでしょ。
女の子はインターホンも通じないのに1人でお留守番してるのは危ないから、僕がずっと傍にいてあげようと思って。
いいでしょ?」
「キ、キラと一緒にいる方が危ない・・・。」
「へぇ、僕がどう危ないの?
・・・・・・、大丈夫、もう乱暴なことしないから、そんなに怯えないで・・・・。」
キラの言葉にはふっと肩の力を抜いた。
正直なところ、彼と2人きりになるのが少し怖いのだ。
何をされるかわかったもんじゃないし、3年前のあの出来事から、の心中ではキラは要注意人物のレッテルを貼られているのだ。
彼との間に何があったのか、シンは未だに知らないわけだし。
「・・・今、あからさまにほっとしたよね?
まぁいいけど・・・。
それよりも、今日晩ご飯作りに来てくれないかな?
引っ越ししたてって大変なんだよね。」
「カレーなら、後で作ったのを持ってくつもりだけど・・・。
シンが帰ってきてからでいい?」
「えー、僕それじゃあの子のついでみたいじゃん。」
「ついでに決まってるじゃないすか。
・・・人の家に勝手に上がりこんで、何してんすかあんた。」
いきなり不機嫌さ丸出しのシンの声がして、は顔を輝かせた。
どんなタイミングか知らないが、この時ほど彼の存在をありがたく思ったことは、ここ最近なかった。
シンにとの間を割り込まれ、苦々しく舌打ちをするキラ。
シンは目を吊り上げてキラを睨みつけた。
「隣に人が越してきて表札見たら『ヤマト』って書いてあったから、まさかとは思ったけど・・・。
急いで帰ってきて良かった。」
「お仕事ご苦労様だねぇ。」
「どこぞの白服様と違って、こっちは休み少ないんで。」
バチバチと2人の間で火花が散る。
真っ向から向き合えば言い争いが耐えない彼らを止めるストッパーは、しかいない。
しかし、彼女の場合は何を言っても片方から反論されそうだ。
「ふ、2人とも!!
・・・とりあえず、ご飯食べよ?
私がカレー作ってる間、シンはキラが壊してくれちゃったインターホンの調子を見てくれるかな?
キラはまだ家の中が片付いてないんじゃないの?」
「ん、わかった。
今日はカレーか、楽しみだな。
てかあんた、人ん家の備品壊して何のつもりですか。」
「壊したんじゃないよ、いじっただけだよ。
夕食、僕もこっちにお邪魔するね。
別にいいでしょ、新婚家庭でもあるまいし。」
「あんた性格ほんと最悪っすね。」
その日シンとキラは、はキラを追い出すまで際限なく喧嘩していた。
「・・・これから、大変そう・・・。」
は、平穏な生活がぶち壊れたのを確信していた。
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