民間人の中にも頭の回転の速い子はいるものだ。
どこぞのルームメイトよりも賢いかもしれない。














Data04:  お買い物に行こう
            ~チェスでゲットだ欲しい物~












 ミネルバから5,6人の少年少女達がそれぞれ私服を着て外へと出かけて行った。
今日は待ちに待ったとのデート、もといお買い物の日だ。
身ひとつでやって来た彼女に私物と呼べる物はほとんどない。
今、彼女が着ている服は背格好が似ていない事もないメイリンのを借りているが、彼女の持つ服はどれも露出度が高い。
そのためシンとアスランは現れたの服を見て露骨に嫌な顔をした。
間違ってもに嫌な顔をしたのではない。






「でも私お金ないしな・・・。
 ミネルバでなんか雑用でもしたら、それでもお給料もらえるのかな。」



「そりゃ軍の方からいくらか支給されるだろうけど、今日のところはおとなしく買ってもらったら?」







 シンがにこう言うのには訳がある。
彼だってミネルバのエースパイロットなのだから、結構いい給料を貰っている。
しかし彼のそれのほとんどは食料、主にお菓子につぎ込まれているのだから余裕がない。
本当なら自分がに服でもなんでも買ってやりたいのは山々だが、仕方がないのである。
どうしようかと顔を見合わせあう一般人達。
こんな時お金持ちがいてくれたら・・・、いた。
普段庶民的な生活をしているので気付かなかっただけだが、ここに1人、金なら有り余るほどに持っている青年がいるのだ。







、今日は俺が買ってあげるよ。
 就職祝いという事で。」


「アスラン・・・、でも悪いよ。」



「そうですよ、男性が女性に服をあげるのは、その人を脱がせたいからって昔っから言うじゃないっすか。」



「・・・俺は服じゃなくて、これで好きなのを買えと言ってるんだ。
 それにお前の思考回路は最近ますますずれてきているぞ。」






しばらく黙り込んで考えていただったが、やがて顔を挙げると申し訳なさそうに言った。





「アスラン、ありがとう。お金たまったら絶対返すから!!」





こうしては本日メイン買い物、服選びを難なくクリアしたのだった。


































 しばらくまたわいわいと歩いていると、整備士’sが歓声を上げた。
新しいゲームソフトが発売されているらしい。






「ほらシン! あれ、こないだ読んでた雑誌に載ってたヤツ!」



「うっそマジで!? あ、、俺ちょっと行ってくる!!」







 そう言い残すと3人はものすごい勢いで特設会場へと駆けて行った。
手を振って見送るの視線が先程から変わらない。
いったい何を見ているのだろうとルナマリアが視線の先を見やる。
そこにはポスターにでかでかと、『チェス対決で本店最強プレイヤーに勝利したら、お好きな商品プレゼント!!』と書いてある。
は視線をポスターから外さず誰ともなしに言った。







「誰か、この中でチェスできる人、私にやり方っていうか、動かし方を今すぐ教えて。」


「あ、じゃあ俺教えるよ。」





 早速アスランコーチによるチェス講座が始まった。
興味のないホーク姉妹はさておいて、彼女の後ろでアスランの教え方にいちいち頷いたり、
時折にアドバイスしているレイもきっとチェス経験者なのだろう。

























チェス対決会場。いやに立派な会場にいかにも頭の切れそうな男と、まだ年端もいかない少女が向かい合っていた。
ギャラリーも幼い。いずれも16~18歳の少年少女達だ。
この妙な空気を感じ、シンは隣のレイに尋ねた。






「なんでがチェスやるんだよ。
 欲しい物って何さ。」



「ノートパソコン、だそうだ。ただ彼女が今からやる試合が初めてのチェスだ。」


「嘘でしょ? それってまずいんじゃないの?
 いくらアスランさんがコーチしたって。」




2人がお願いします、と挨拶した。
ゲームの開始らしい。

























 (う~ん、チェスのピンって可愛いなぁ。)



 は習い覚えたばかりのチェスのルールを忠実に守りながら、駒を進めていった。
この店最強のプレイヤーが世間でどれほど強いのかはわからない。
アスランよりもできるのかできないのかもわからない。
時々ちらりと視界に入る彼の顔は若干青ざめているようにも見えた。
自分の方が分が悪いということだろうか。








「あのさ・・・、俺よくチェスのルール知らないんだけど、どうなの?
 やっぱ負けてる?」


「次でわかる。見てみろ。」






 は盤上をじっと見つめていた。
もしかしてこれを動かしちゃうと勝ってしまったりするのだろうかと考えてみる。






「えーっと・・・、チェックメイト?」





対戦相手の男ががくっと頭を垂れた。
小さな声でおめでとうございますと言う。
そうだ、は初対戦にして初勝利を飾ったのである。







「すっげえ!! 勝ったってよ!!」


「うわっ、私もなんかよくわかんないけど良かった!!
 これであれもらえる!!」





があれといって指差したのは世にもコンパクトなノートパソコンだった。
店員がお嬢さんお目が高いと言って誉めそやす。
にっこにこ笑顔で景品を受け取ると、は思い出したかのようにシンに尋ねた。






「シンが欲しがってたゲームってどんなの? 楽しい?」


「えっ、やっ、あれはその・・・。」



「ギャルゲーよギャルゲー。
 相手になる女の子の名前が勝手に自分で入れられるのよ。
 そうよね、シン。」


「メイリンっ、余計な事・・・!!」





 へぇーっと興味津々で納得すると、なぜだか彼女に必死に弁解するシン。
まさか自分の入力したい名前が『』だなんて、口が裂けても言えない。





「・・・は賢いんですね、並よりもはるかに。」


「師匠をたった1時間ちょっとで超える弟子を持つのも辛いな・・・。」





チェスの師匠、アスランのちょっぴり悔しそうな感想だった。








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