あぁ愛しの我が従妹よ。
早く俺の前に姿を現しておくれ。














Data06:  はじめまして隊長 再会編
            ~ボルテールは美形がいっぱい~












 無重力は嫌いだ。は心からそう思った。
どうしてみんなあんなに上手にすいすいと移動できるのかがわからない。
身体はくるくる回るし、スカートはふわふわなるし、自分の部屋に戻るだけでも一苦労だ。
今もシンに引っ張ってもらっているのでなんとか保っている方だ。





、ほんとに無重力だめなんだ。」


「うん。わ、わ、身体がひっくり返るー!!」




油断するとくるりと回転しかけるをシンが慌てて受け止める。
ミネルバがずっと宇宙での任務だったら、に毎日触り放題なのにとシンは思った。
今、彼の腕にはがしがみついている。
この空間に彼女が慣れるにはもう少し日数がかかるようだ。
どうやら彼女の運動神経はあまり良くないらしい。











































 宇宙の景色に変わりはないのだが朝が来た。
ベッドから勢いよく起き上がるとさっさと制服に着替える。
そして思い出したかのように声をかけた。








「いつまで寝てんの。今日はが来るのよ、早く支度しないと間に合わないでしょ。」


「貴様という奴は・・・。俺と女とどっちが大切なんだ!!
 最近ずっとと・・・!!」



「ヤキモチ妬いてる暇があるんなら早く着替えなさいよ。
 幼なじみを待ち焦がれてる私にそんな愚問しないで。」





 朝から恋人の言葉をばっさりと切り捨てる
彼女にとって、(アスラン)来訪との報せを受けてからの3日間はあまりに長すぎた。
悪友ディアッカといる時間も、恋人イザークといる時間も、いつもの倍近く長く感じられた。
低血圧気味でご機嫌斜めのイザークをほったらかしにしては部屋の外へと出た。
扉の外にはディアッカが待ち受けている。






「よ、。今日はご機嫌だな。
 やっぱイザークまだアスランやちゃんには勝てないのか。」


「そういう訳じゃないんだけど、ヤキモチなんか妬いちゃって・・・。
 2人とイザークは全然違うのに。」





 傍から見ればこの2人が付き合っていると思うだろう。
しかしそんな事を間違っても我らがジュール隊長の耳に入れてはいけない。
ごくごく内密に付き合っているのは婚約者同士でもあるイザークとなのだ。
もっともこの2人は同じ艦にいてもそんな素振りおくびにも出さない。
2人、もしくはプラスディアッカの3人きりの時だけ彼らは恋人同士となるのだ。
それでいて今まで他人にこの秘密の関係が知られた事はない。







「でもってイザークは? 昨日はお愉しみだったんじゃねぇの?
 まだ夢の中とか。」


「・・・何を聞きたがってるのかは知らないけど、昨日はイザークソファで寝てたわよ。」




この婚約者達の間には、なにか越えられない壁でもあるのだろうか。
だとしたらそれは、年頃の非常に微妙な男心をさして理解していない、には不相応の純粋さだろう。
一夜を同じ部屋で過ごすイザークにとっては生殺しもいいとこである。
























 目の前に巨大な戦艦が見えてきた。
あれこそジュール隊の母艦、ボルテールだろう。
は相変わらずシンの腕にしがみつきながらも指差して言った。





「あそこにヤキンの英雄が3人もいるのね。
 ジュール隊長とと、あともう1人。」


「そうそう、俺さっき思い出したよ。
 ちょっと前にユニウスセブンが落ちたんだけどさ、あのときにそこの隊の人達と一緒に戦ったんだよ。
 強かったなぁ、俺の出番なかったもん。」



「さすがだね。あー・・・、でも私の事覚えててくれたかな・・・。
 ちょっと心配。」


「何言ってんの。みたいな子を忘れる訳ないじゃん。
 幼なじみなんだろ、大切な。」




ミネルバの動きが止まった。
いよいよジュール隊との名ばかりの共同訓練の始まりだ。






















 「イザーク・ジュールだ。
 ミネルバの諸君、今日から我が隊員と共にその技術をより磨いてほしい。
 ・・・特にグラディス艦長から直々に言われている・・・、シン・アスカ君。」


「げ、俺?」




 その場にいる人々の中から失笑がもれる。
シン・アスカはこれで全員が知った事になる。あくまで問題児としてだが。
それにしてもミネルバのパイロット4人はとにかく落ち着きがなかった。
ルナマリアはうっとりとしてイザークの端正な顔に見惚れまくっているし、シンは不貞腐れて明後日の方向を向いている。
アスランはきょろきょろとイザークの周りを見回している。
おそらく愛しの従妹を探しているのだろうが,彼女の姿は見つからない。
そしてレイですら、誰かを探しているかのように目を細めている。
そんな4人の様子を見てイザークの怒りのボルテージはぐんぐん上昇していく。
クルー達が去り、MSパイロット達のみが取り残された途端、アスランはイザークに走り寄った。






「アスラン、貴様な「はどこだ!? なぜここにいない!? 俺はに会いに来たんだ!!」




イザークに詰め寄るアスラン。
顔と顔がくっつかんばかりに近い美男2人のツーショットを前に、ルナマリアは失神寸前だ。





「なぁレイ、見てねぇ?」


「俺も探したがいない。まったくどこに行ったというんだ・・・。」




ここは幼稚園か何かだろうか。
仮にも彼らは新旧ザフトレッドの面々である。
























 はまだ無重力に慣れきっていない。
動こうにも動けない。
シン達の元に行きたいのに行けなかったのだ。





「あれ? あんた・・・、もしかしてちゃん?」



 途方に暮れていたところに1人の男の声がした。
茶色い肌に金髪、どこかのデータで見たことのある軟派そうな顔。
この人確かヤキンの生き残りじゃなかったかな・・・と思い、ふと浮かんできた名前を口にしてみる。




「はい。ええっと・・・、ディアッカ・・なんだっけ、エルスマンさんだ。
 そう、エルスマン副官ですか?」


「おっ、当たり。へぇ~、あんたがの幼なじみのちゃん・・・。
 かっわいー。」




ニヤニヤとした笑みを浮かべて見てくる彼に少々の危機感を覚える
が、心配する事はない。
このディアッカという人物は女性、特に美女にはとても優しい男なのだ。
その優しさが悲劇を呼ぶこともままある話なのだが。



「あぁ、そういえばミネルバの奴らがあんたを探してたっけ。
 案内するぜ?」


「ありがとうございますっ!」




こんな適当そうな人と一緒に仕事しててストレス溜まってないかな、とまだ見ぬ幼なじみの身を案じただった。


























 「あ、!!」



 ディアッカに連れられやって来たと見つけて、シンはすぐさま彼女の元へすっ飛んでいく。
そして今もふらふらと危なっかしい彼女の手をつかんで怒ってみる。





「勝手にふらふら行っちゃ危ないじゃん。
 今だってこうやってエルスマン副官に・・・。」


「でも・・・。あ、アスラン、シンがいじめる・・・。」



「あの人に気軽に話しかけちゃ駄目だってば!!」





 シンの言葉に反論しようとしたアスランだったが、その言葉はの驚きの声でかき消された。
上を見上げて歓声とも悲鳴とも取れる叫びを上げている彼女につられるようにして、アスランも上を見上げる。






「仮にも私の従兄にその言い方はないんじゃないの?
 ・・・アスラン、行くわよっ!!」




 高い所から凛とした女性の声がした。
無重力を利用して綺麗に舞い降りてくる影。
アスランは彼女の正体にすぐに気が付き、手を伸ばしてその影をつかんだ。
声の主がぎゅうっとアスランに抱きつく。
彼の隣では、イザークがプルプルと怒りで震えている。
怒鳴り声を上げないだけ彼も大人になったということだ。











「元気そうで何より。みんな元気よ、私も。」










 2人の熱い抱擁を目にしてその場に硬直するミネルバ新人パイロット達。
女性はアスランからふわりと離れると、シン達の前へと歩み出た。
さらさらとした肩まで伸びた紺髪に、きりりとした眉。
長い睫に縁取られた大きな水色の光を湛える瞳。
傷もしみも1つとしてない真っ白な頬によく映える形の良い赤い唇。
制服を着ていても分かるからだのラインはとても美しく、上着と同じ色をした膝上までの短めのスカートから伸びるすらりとした足は、
見事な脚線美を作り出している。
こういう女性をパーフェストビューティーと言うのだろう。








 「・・・!!」





は名前を呼んだ。
はにっこりと美しく微笑むと、シン達に向かって自己紹介した。




「ジュール隊所属、です。
 アスランとは従兄妹、とは幼なじみよ。
 短い間だけどよろしくね。」





 5年ぶりの再会だった。








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