史上最強の問題児と射撃駄目少女、無口な金髪に悩める従兄。
ミネルバのキャラ層もなかなか厚いわね。
Data07: はじめまして隊長 友情編
~恐るべし元クルーゼ隊~
「っ・・・!!
会いたかったよ、ずっと、ずっと、ずっと・・・!!」
泣きそうな声では叫んだ。
は優しく微笑むと、そっとを抱きしめた。
涙が出てきそうになる瞳に喝を入れ、ぱあっと笑っての顔を見つめると、手の中のイヤリングを差し出した。
「おいおい、それ家の家宝じゃねぇの?」
「そ。まだ小さかった頃にに片方渡してたの。
これ持ってる人が・だってすぐにわかるでしょ。」
これでがどこかに亡くしでもしていたらとてもお話にならない。
はありがとう、と言うとイヤリングを手に取り耳につけた。
「美人になったね。ねぇ、シンもそう思わない?
すっごくきれいでしょ?」
「そうだけど・・・、なんか気が強そうじゃね?」
「貴様ぁっ!! こいつの悪口を言うなどどういう料簡だぁっ!!」
シンの何気ない発言にぶち切れるイザーク。ぽかんとした顔で彼の顔を眺める新人達。
彼らの隣ではアスランとディアッカがあちゃーという顔をしている。
「あぁ、この人がイザーク・ジュール隊長。
アスランの同期。さっき見たまんまの性格の19歳。」
上司の癖にものすごく簡潔かつ粗雑な紹介でイザークを前へと押し出す。
は間近でイザークを見て目をキラキラと輝かせる。
「ジュール隊長・・・。私こんなにかっこいい人初めて見たかも!!
・・・でも、私隊長見たの初めてじゃない気がするんだよね・・・。
あの、以前どっかで私と会いました?」
「あぁ?」
尋ねられてイザークはまじまじとの顔を見つめた。
濃い目の茶髪に白い頬、大きな真っ黒な瞳の2つぐらい年下に見える子・・・。
確かにどこかで見たことがある気がする。
「・・・2年程前、俺はお前によく似た少女の落としたイヤリングを拾った。」
「それ! それですよ絶対!!」
すっかり2人だけしか知らない世界の話を始めて面白くなさそうな顔をするシン。
好きな女の子が他の男をかっこいいだの何だの言っているのを見て、楽しいわけがない。
これだから美形は嫌いなのだ。
「おいイザーク、そのくらいにしてこいつらの研修してやらないと。
ザラ隊長じゃなくてジュール隊長のお力が必要なんだってさ。」
ディアッカのおだてに乗せられ、自分の本来の任務を思い出したイザーク。
てきぱきとディアッカとに指示を与える。
2人に続いていくシン達が消えたのを確認すると、イザークはアスランに話しかけた。
「あいつとは上手くやっている。
危険な目になど遭わせん。心配するな。」
「・・・頼むよ、従妹の婚約者殿。」
イザークになら安心してを任せられると思えるようになってきた、最近のアスランだった。
彼も彼なりに少しは成長したのだ。
射撃訓練場に彼らはいた。
ルナマリアが銃を手にしてにコーチを頼んでいる。
「私射撃苦手なんです。さんお教え願えますか?」
「でも私もあんまり上手じゃないのよ。」
の言葉になぜか喜びを隠せないルナマリア。
憧れの人との共通点があって嬉しいのだろうか。
まさかこの少女の腕前が、アカデミーにその名を残すほどにどうしようもなく酷いとは考えていないは、シン達の前で実際にやってみた。
何発か外してしまいほらね、と苦笑しながら彼女の方を振り返る。
「・・・さん、それは苦手とは言わないと思うのですが。」
レイが控えめな口調で言う。
ミネルバの中ではアスランについで射撃ができると言われている彼も、の技術には遠く及ばない。
「え、そうなの?
でも私、昔アスランとかディアッカとかと隊が一緒だった時は、ザフトレッドの中で一番下手だったんだけどな。」
2年前と今では『一番下手』のレベルも大きく違うようだ。
当時のクルーゼ隊員の能力がずば抜けて良かったという事もありうる。
は1人で機体の整備されている所までやって来ていた。
いつの間にか無重力にも慣れたらしく、かなり楽に移動する事もできるようになっていた。
の搭乗機の前まで来てぼんやりと眺める。
紺と銀を基調としたガンダムだなんて、ジュール隊長も面白い愛情表現するんだなと思った。
そっとひんやりとした機体に触れる。
「を守ってあげてね・・・。」
「? どうしたのこんな所で。」
ぽつりと呟いた時、背後での声がした。
すうっとの横まで飛んでくると、まぶしそうに愛機を見つめた。
「イモータルリヴァイヴ。永遠の復活って意味だったかな。
別に前線に出て戦うわけでもないのにこんなの貰っちゃってね。
すっごいでしょこの色。これで他のみんなが気付かないんだからね。」
「やっぱりジュール隊長とそういう仲なんだ。
いいな、愛されてて。」
まぁね、とは答えるとOSの画面を開いた。
真剣な眼差しで画面とにらめっこしながらに尋ねる。
「キラには連絡した? ・・・ザフトからできるわけないけど。
彼、きっとアークエンジェルにいるんでしょうね。」
「ううん、会いたいんだけど、ね。それに私はミネルバに残るから。」
「今まで何やってたの、とかは聞かないけど、これからどうするのとは聞くわよ。」
はに歩み寄った。画面をさっと見ただけでもわかる。
とても綿密に書き込まれたにとって、もっとも使いやすい環境にあるような組み立てだった。
「私ね、スパイ養成所にいて、そこから逃げたから多分命狙われてるんだよね。」
の手が止まった。ゆっくりとの方へと身体を向ける。
その瞳には不安げな色が覗いている。
は彼女の気持ちを和らげようと明るく言った。
「でも、ううん、だからミネルバに残る。逃げてるばっかりじゃこっちが負けるしね。
・・・それに私も好きな人と離れたくないし。」
「がもっと可愛くなったのはあの問題児のせいなのね。
しっかり守ってもらいなさいよー。あんな性格だけど戦闘能力だけは無駄に高そうだしね、彼。」
「もね。あ、ちゃんとジュール隊長との事は黙っとくからね、アスラン以外には。」
2人は顔を見合わせてくすりと笑った。
夢のような日々はあっという間に過ぎ去り、ミネルバは再び地球へ戻る事になった。
「、2度目はないぞ、2度目は。」
「わーかってるって。アスランもちゃんとしないと後輩に舐められるわよ。
ていうか、もう既に舐められてたからこっちに来たんだっけ。」
アスランがいつまでもぐずぐずととの別れを惜しんでいる間、はシン達に囲まれていた。
「いいの? さんとお別れよ? 次いつ会えるかわかんないのに。」
「でも昨日ちゃんとお別れ言ったから。」
がシン、ちょっと、と呼ぶ声が聞こえた。ぶすっとした顔で彼女の元へ行くシン。
どこにいたって問題児は問題児のまま変わりない。
「なんですか、また俺バカな事でもしました?」
「ったく本っ当にこんな子でいいのかしら・・・。
あのね、ちゃんとを守ってね。でないとあの子、どっかに行っちゃうから。」
思いもかけないの言葉にシンは目をぱちくりとさせた。
は根気良くシンに言って聞かせる。
「確かにミネルバにはアスランっていうかっこいい私の従兄もいるけど、でもシン、あなたがを守るの。」
「・・・さん、俺、あんたの事気の強い人だとばっかり思ってたんすけど、本当はものすごく美人で優しい人だったんすね!!
俺、マジで尊敬します!!」
シンの突然の大声に静まり返るボルテール。
数分後、怒り頂点に達したイザークから逃れるように艦長を急かせて地球へ降下していくミネルバの姿があった。
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