そうだ海に行こう




 あのね諸葛亮様、お願いがあるんですけど。
我儘に聞こえないように殊勝な態度で、休息中の諸葛亮様に声をかける。
いいですよ。
まだ何も聞いていないのに即答してくれる諸葛亮様、相変わらず私に甘すぎる。
ほんとにいいのかな、中身を聞いたら諸葛亮様も月英様も駄目って言いそうなものだけど。
私は諸葛亮様から譲ってもらったお菓子を手元に引き寄せると、あのねと言葉を続けた。



「暑いので海に行きたいです」
「いけません」
「でもさっきいいですよって・・・」
「私の神算も外れることがたまにはあります」



 蜀にも川がたくさんありますよと諸葛亮様は言ってくれるけど、川遊びに飽きたからこそのおねだりなのだ。
呉からやって来た行商人に海について教えてもらった日から、私の心はまだ見ぬ大海原に漕ぎ出している。
海とは、対岸が見えないらしい。
どこまでも続いていて、ずっとずっと遥か遠くには黄金でできた島もあるとかないとか。
すごくないですか諸葛亮様、私も海で蟹と遊んだり貝殻拾ったりしたい!
私の熱意溢れる弁舌に、諸葛亮様が目を閉じて聞き入っている。
理由は言った、諸葛亮様は今度こそ許可してくれるはずだ。
私はふふんと胸を張った。



、海もいいですが山も良いものです。隆中という私や月英がかつて住んでいた庵をおすすめします・・・」
「そこは海はありますか?」
「すぐ側を流れる川で捕れる魚は絶品です」
「海がないなら行かないです」
「なんと」
「え~行きたい~海が見たい~! はっ、ていうか諸葛亮様に内緒で行けば良くない? そうしよ!」



 我ながら名案だ。
さすがは私、私にも一応軍師の血が流れてたみたい!
悩み事と願いが一度に解決した気分になり、体も軽くなる。
そうと決まれば出立の準備だ。
諸葛亮様と月英様に知れないように夜更けか日の出前に出発して、一番近くて平和な海はどこかな。
早くどこかの国が天下統一して、好き勝手遊びに行ける時代が来てほしい。
お菓子を食べ終わるなり部屋を飛び出した私の背中に向かって、諸葛亮様が待ちなさいと声を上げていた。




「私の前で言った時点で、それはもう内緒ではないのですよ・・・」「本当に可愛い子なんですから」



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