戦線離脱再び
数日ぶりに見たの呪文は冴えわたっていた。
いや、少し怖い気もした。
熱気がすごいのだ。
まるで彼女自身がひどく熱を持っているかのように。
ダースウルフェンの群れをあっさりと吹き飛ばしたは、肩で大きく息をした。
体がぐらりと揺れる。
病み上がりも病み上がりなのだ。
「っ!?」
ふらーっと倒れかけたを、ががっしりと抱きとめた。
服越しにでも、彼女の身体の熱さがよくわかった。
どうしてこんな状態で立っていられて、しかも呪文を唱えることが出来たのだろうと、疑問が湧くくらいだ。
は冷え切った自分の手をの火照った頬に当てた。
少しでも彼女の苦しみを和らげたかったのだ。
「・・・?」
「そう、僕だよ・・・。
・・・どうして無茶ばっかりするんだ?」
言いたいことはこんな台詞じゃなかった。
会いたかった、無事で良かった。
そう言いたかったのだ。
怒るつもりなど、これっぽちもないのだ。
けれども勝手に言葉が出てくる。
そんな自分の口が憎たらしくてたまらない。
たった一言、会いたかったと言えば、それですべてが丸く収まるかもしれないのに、だ。
「こんなの無茶じゃない・・・。
レオパルドは・・・? また、誰か死んじゃう・・・・・・!!」
はの腕に縋りついた。
目が必死に訴えている。
は彼女の様子に鬼気迫るものを感じた。
本当に、誰かが殺されそうな気がしたのだ。
「落ち着いて・・・。」
「そうでがす。今が倒れたら元も子もないでがす。」
「、とりあえずグラッドさんをオークニスに連れて行ったほうがいい。
ルーラ唱えるぞ。」
先日介抱したばかりの少女が、高熱にもかかわらず無茶をしているのを見たグラッドは、驚きで目を見開いている。
こんなめちゃくちゃな患者は生まれて初めてだ。
普通なら死んでいる。
たちを包み込んだ光は、オークニスに向かって一直線に飛んでいった。
オークニスのグラッドの家で、は再び寝台上の人となっていた。
グラッドにひどく叱られたのである。
病人が無理をするな、とそれはもうすごかった。
「すみません・・・。でも・・・っ!!」
「でももだからもないんですよ。
高熱の中外を出歩く人がいますか。
さんたちがいたから良かったものの・・・。
当分の間、絶対安静です。」
ぴしゃりと養生を言い渡されたは、不満げな顔をした。
寝ている場合などではないのだ。
しかもたちは自分を除け者にしてなにやら話し込んでいる。
「、僕たちは今からメディさんの所に行くよ。」
「メディさん・・・?」
「グラッドさんのお母さんで、せつなとはぐれた時にお世話になってたんだ。」
はこくりと頷いた。
なぜ彼らがメディの元に行くのかはわからないが、きっと思うところがあるのだろう。
あえて止める必要はどこにもなかった。
「それで、もうを1人にしておきたくないから、ゼシカをここに残してくね。」
「看病ぐらいならできるわ。
任せて。」
ゼシカが残ってくれるのは嬉しかった。
1人だったらまた何をしでかすかわからないし、彼女となら不安に駆られることもない。
はを名残惜しそうに見つめると、ヤンガスたちを連れてメディの元へ旅立っていった。
「ね、すごく心配してたのよ、とはぐれてから。
雪の中駆け回って、本当に彼はのことを大切に思っているのね。」
「・・・私は、に守ってもらわなくても自分の身ぐらい、ゼシカみたいに守れるの。
でも、はそれをわかってくれない・・・。」
ゼシカは、との間に何らかのすれ違いがあることは見抜いていた。
それが互いのどうしても譲れない部分だということも、なんとなくわかっていた。
がを守りたいのは、彼女を傷つけたくないからだ。
彼女を愛しているから、だから過保護にもなるのだ。
そしてそれは彼にとっては負担などでは決してない。
対しては、に負担をかけたくなくて、自分の身を自分で守ろうとした。
それは人が生きる上で当然の行為であり、の望みを阻むことはできない。
互いに互いを案じすぎているのだ。
「は・・・、私のせいで傷ついてほしくないの。
私は、彼を傷つけるんでなくて、癒せるような存在になりたいの・・・。」
「は充分に癒されてると思うわ。
物理的にも、精神的にも。
・・・今度、2人でじっくりと話し合ってみて。
絶対に、2人には通じるところがあるから。
好きなら口で言わなくちゃ駄目よ。」
ゼシカの笑みにつられ、も少し笑った。
その直後、グラッドの悲鳴が響いた。
次いで聞こえるのは、翼が大きくはためく音。
外へ飛び出したゼシカが、天を仰いで指差した。
黒い物体、それは紛れもなくレオパルドだった―――――に、グラッドは鷲づかみにされていた。
「あの方角・・・、メディさんの家・・・っ!!」
「ゼシカ、行こう。
キラーパンサーこれで呼べるから。」
いつの間にか身支度を整えたがゼシカにキラーパンサー召還用の鈴を見せた。
メディの家へ行ったことがなくても、これは2人乗りなのでゼシカにお任せできる。
ゼシカは、を止めようとした。
しかし、彼女の目を見て、すぐにそれが無理だと悟った。
何を言っても無駄なのだ。
「グラッドさんを連れてったってことは、ターゲットはメディさんなのね。」
「そうとしか考えられないわ。
たち、大丈夫かしら・・・。」
「私は大丈夫だと信じてる。」
の言葉にゼシカは大きく頷いた。
信じることが希望につながる。
2人は、仲間とメディ、そしてグラッドの無事をひたすら祈っていた。
back
next
DQⅧドリームに戻る