暗黒神ラプソーン
半透明になったはラプソーンをきっと睨みつけた。
余計なことを言うなという怒りと、同族(だったらしい)を皆殺しにされた屈辱とがない交ぜになっていた。
実体がないことなんて、闇の世界での出来事や、夢の世界へも難なく行けたことで驚きはしない。
けれども、自身のことよりも気になったのは愛しい者のことだった。
体がないということは、彼に触れることも触れられることもできない。
その体がの手をすり抜けた時、は言いようもない悲しみに襲われた。
「その体ではろくに戦えまい。残るは人間どものみ」
「・・・を悪く言うんじゃないわよ、このどチビが」
ぴしりと言い放ったゼシカは、を庇うようにして仁王立ちした。
まるでには指一本触れさせないといった気迫に、男性陣も遅ればせながらそれぞれの行動を取り始める。
「の何を知ってるか知らないけど、傷つける奴は許さないよ?」
「身にまとうは優しき衣 神の護りを宿したまえ スクルト!」
の体を青白い光が包み込んだ。
呪文の力とともにの叫び声が聞こえる。
「私は平気だよ! 呪文はどんどん使えるからねっ」
の叫びに、はラプソーンに切りかかっていくことで応えた。
彼女の言うとおり、呪文の効果はきちんと表れていた。
物理攻撃を受けても直に痛みを感じることはない。
しかしラプソーンはスクルトを見越してか、念力の籠もった球体を投げつけてきた。
ラプソーンの杖から放たれた紫色の球はふわりと頭上高くにまで上がると、ものすごい速さでとククールにぶつかってきた。
体中の神経という神経に鋭い衝撃が走り、地面に転がることで痛みをごまかそうとする。
「兄貴、ククール!?」
「・・・俺はいいからっ、ラプソーンを叩けヤンガス!」
苦悶の表情を浮かべつつもベホマを唱える体制を構えたククールだったが、続くラプソーンの第二撃には耐え切れなかった。
壁に激突し大きく咳き込むと、口元から微かに血が流れてくる。
「大地の恵みよ 大いなる力を施さん ベホマラー」
が両手で握り締めた復活の杖から、柔らかな光が溢れ出た。
そしてベホマラーの直後にラプソーンに向かってマヒャドを唱える。
「小賢しい・・・。精神ごとひねり潰してくれる!」
ラプソーンは先程とククールをぶちのめした念力を、あろうことか2つともに投げつけた。
闇の力100パーセントの念じ球に対抗できるほど、自分の不安定な体は強くないとわかっていた。
闇を忌む一族だから、たとえいくらか違う血が流れていようとも、まともに受ければ消滅すると知っていた。
それでもは逃げなかった。
これが現実ならば、受け止めなければならないのだ。
逃げていてもラプソーンは消えない。
ならば、わずかにでもある可能性には賭けた。
今はなき同胞の願いを武器にして、盾にして、魔力にして。
「っ!!」
「・・・強き力を秘めたる翼よ、汝の力を我に貸さん!
ラプソーン・・・、私はやることがあるの。だから死ねない」
ばしいっと何かが硬い壁にぶち当たって砕ける音がした。
の周囲に散らばっている紫色の欠片は、ラプソーンが寄越した念じ球の成れの果て。
「みんな今だよ! ラプソーンの力は少し砕いたから!」
の声を待たずして、たちは一斉にラプソーンに襲い掛かった。
一時的とはいえ力を抑え込まれたラプソーンには、戦闘当初よりもあっさりとダメージを与えることができる。
これはもしかしてもしかするんじゃないかと思うぐらいにクリティカルヒットを与えていると、苦しげにラプソーンが呻いた。
「黙っておればいい気になりおって・・・。この程度の力を思っていたら大間違いぞ!?」
「ほざくなラプソーン!」
は止めとばかりに小さなラプソーンの心臓に剣を突き立てた。
やったと思ったのと同時に、中身のないものを刺した感じがした。
手応えがなかったというか、刺した瞬間にぐにゃりとラプソーンが溶けた気がした。
その感触には不吉な予感がした。
完全には倒しきれていないという、妙な消化不良が起こったのだ。
「兄貴、やったでがす! これでラプソーンは「倒せてない、気がするんだ」
「どういうことでがす? さっきのあれはラプソーンじゃないんでがすか?」
「いや、あれもラプソーンなんだろうけど・・・」
が言いかけようとした時、足元がぐらりと揺れた。
そればかりか、周囲の壁もぱらぱらと崩れだす。
「こりゃまずいぞ。早く外に出ないと生き埋めだ」
「リレミト使えないね、自力で行くしかないのかなやっぱり」
ゼシカと2人でリレミトによる脱出を模索していたが呟いた。
ラプソーンの呪いなのか、呪文を唱えてもすぐに魔力が分散してしまう。
「逃げよう。行こう、」
はに手を差し出そうとし、ぴたりと止まった。
2人の間に気まずい空気が流れる。
は右手を下ろし小さく拳を握ると、にこりと笑いかけた。
「行こう、」
「う、うん」
その笑みがどれほどぎこちなく、握り締めた拳が震えているのか知っているのだろうかとは思った。
唇ときつく結び何かを必死に堪えようとしているの横顔に、が我が身を呪った。
早く元の体に戻りたいと、心から願いつつ走る。
ようやく外に出てレティスの雛鳥の力を借りると、雛鳥は怖そうに言った。
「ねぇねぇ、ここ気持ち悪いよ。ボク酔いそう」
「もうちょっと頑張ってみよう?」
「でも・・・」
雛鳥が言いかけた直後、背後から突風が襲ってきた。
それも、邪気に満ち満ちた風が。
避けるためか煽られているのか、小さな雛鳥の体はヒラヒラと葉っぱのように揺れまくる。
まるで風に触れたらいけないかのように懸命に逃げるが、折からの雛鳥のローテンションが仇となった。
ほんの一瞬避けそびれて、金色の翼を突風が貫いた。
「ボ、ボク、もうだめ・・・」
雛鳥の力が途切れた。
必然的に飛べない人間であるたちは空に投げ出される。
為す術もなく海に向かって真っ逆さまのたちに、は絶叫した。
自らは一族の特徴である翼の力を借りて浮いているからいいもの、掴めない体なので助けることもできない。
このままじゃみんな海にドボンで死んじゃうと目を瞑ったその時、の横を巨大な鳥が横切った。
「諦めてはいけませんよ。ついて来なさい」
「でも私、みんなと・・・!」
「姿は戻りますよ、一時的にはですが」
レティスの条件つきの言葉に、なにやら不安を覚えただった。
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